犬のてんかんは完治が難しい脳の病気です。発症にはさまざまな原因が考えられ、症状によっては命にかかわりかねません。
本記事では、てんかんの具体的な症状から病院を受診すべき重篤な症状など、治療費や対処法とともに解説します。
犬のてんかんは命にかかわることもある
犬のてんかんは、正しく対応できれば基本的に元気に生活できますが、症状によっては命にかかわることもあります。
まずは、てんかんとはどのようなものか解説します。
発作を起こす慢性的な脳の病気
一般的にてんかんとは、神経細胞が過剰に活動することで発作が起こる、慢性的な脳の病気です。発症すると、けいれんする、意識を失うなどの「てんかん発作」を定期的に繰り返します。
基本的に完治が難しい病気であるため、てんかんと診断されても落ち着いて観察し、発作とうまく向き合いながら生活することが大切です。
遺伝的にてんかんを発症しやすいといわれている犬種も
てんかんの発症は、遺伝的な原因が大きく関係していると考えられています。
遺伝性てんかんについて、詳しい仕組みはまだわかっていないことも多いですが、以下の犬種は比較的発症しやすい傾向があるといわれています。
- ラゴット・ロマーニョ
- ベルジアン・シェパード
- ローデシアン・リッジバッグ
また、以下の犬種などもてんかんの遺伝的要素を持っていると考えられています。
- ビーグル
- シベリアンハスキー
- シェットランドシープドッグ
- ラブラドールレトリーバー
- ゴールデンレトリーバー
- オーストラリアンシェパード
遺伝的な要素を持つ犬種は、そうでない犬種と比べると発症する割合が高い傾向にあるものの、だからといって必ずてんかんになるとは限りません。
また、遺伝子異常以外の原因から発症するケースもあります。てんかん発作が生じたときは、速やかにかかりつけの動物病院で検査しましょう。
参照元 :長谷川 大輔|犬と猫のてんかん読本
てんかんだからといって寿命が縮むとは限らない
てんかんは、脳のトラブルによって発作が起こる病気です。
完治は難しいものの、早期治療と薬の投薬によって、発作頻度を3ヶ月に1回以下にコントロールできれば、寿命は健康な子と変わりません。
ただし、発作が3ヶ月に2回以上発生する場合は、生存期間が短くなる傾向があります。
また、群発発作により脳へのダメージが蓄積され脳の圧力が高まった場合、脳浮腫や脳ヘルニアなどで命にかかわることもあります。
こうしたリスクを回避するために、獣医師と相談しながら、てんかん症状に対する適切な治療を進めていきましょう。
犬のてんかんにみられる具体的な症状
ひと言でてんかんといっても、その症状は全身に伴うものから一部分だけ起こるものまで、さまざまな症状があります。
ここでは、てんかんの具体的な症状を解説します。
脳全体が興奮状態となる全般発作
まず挙げられるのが、全般発作です。具体的な症状は以下の通りです。
- 全身がぴーんと伸びて横転する
- 屈伸や犬かきのような動きをする
- 全身が瞬間的にビクンビクンとする
全般発作時には失禁や脱糞、口から泡を吹く場合もあり、これらの症状が通常2〜3分続きます。
稀にけいれんもなく、瞬間的に力が抜けてバタッと倒れたり、一瞬だけ意識がなくなったりという発作を引き起こすケースもあります。
発作時には犬の意識はないため、いくら飼い主が声をかけても正常には反応しないでしょう。一般的に、上記の発作が終われば何事もなかったかのように普通の状態に戻ります。
嘔吐や流涎などの前兆となる様子に注意
多くの場合、前触れもなく発作が起こる傾向にあります。しかし、場合によっては嘔吐や流涎、荒い呼吸や落ち着きがなくなるなどの行動が前兆となる場合があるため、愛犬の様子に注意しておきましょう。
発作を止めることは難しいものの、犬に突然嘔吐や流涎などの症状がみられたら落ち着いて対処することが大切です。
脳のいち部分だけが興奮状態となる部分発作
てんかんには、脳の一部が過剰に興奮することで部分的に発作が起こる、部分発作もあります。比較的よくみられる症状は、以下の通りです。
- 前足が引きつる
- 顔面の一部がけいれんする
- 大量のよだれを出す
- 自分の尻尾を追い回す
部分発作では、意識がある場合とない場合があります。また、全般発作へ移行するケースもあるので注意して観察しておきましょう。
発作が起きてもそのまま死亡してしまうようなことはほとんどない
1回のてんかん発作でそのまま死亡してしまうケースは稀です。
そのため、愛犬に発作が生じても、慌てずに症状が治まるまで静かに見守ってあげましょう。
ただし以下のようなケースでは、緊急性が高いため速やかに動物病院を受診してください。
- 1日に何度も繰り返す
- 発作が5分以上続く
- 低血糖症や尿毒症による発作
特に、30分以上止まらない発作は、脳へのダメージが大きくなる場合があり、手遅れになる可能性もあるため注意してください。
一時的な後遺症として視力低下などが認められることも
発作後、犬によってはフラフラしたり、反応が鈍かったりする場合があります。また、視力低下などの症状が生じることもあります。
こうした症状は一時的な後遺症である場合が多く、時間とともに消失するため基本的に心配ありません。ただし、症状の継続がみられる際は、別の病気が関係していることが考えられるため、念のため獣医師に相談してください。
なぜ起こる?犬のてんかんの原因は主に3つに分けられる
犬のてんかんの原因は、特発性てんかん・症候性てんかん・おそらく症候性てんかんの3つに大きく分けられます。
ここからは、犬のてんかんが起きる3つの原因について解説します。
特発性てんかん
まず、犬の発作の原因として特に多く見られるものが、特発性てんかんです。
後述する症候性てんかんやおそらく症候性てんかんなどを除き、MRI検査や血液検査でも異常が見つからないものが分類されます。
一般的には1〜5歳のうちに発作が起こりやすいとされますが、6ヶ月〜10歳以上の幅広い層で発作が生じることもあり、注意が必要です。
遺伝的な要素が関係しているともいわれ、発作以外には他の症状がないという特徴があります。
参照元:共立製薬株式会社|犬の特発性てんかんの診断と治療
症候性てんかん
次に、脳で何らかの病変が起きることで2次的に引き起こされる、症候性てんかんがあります。原因として考えられるのは、以下の通りです。
- 頭部の深刻な外傷
- 脳腫瘍
- 脳梗塞
- 脳出血
- 脳炎
- 水頭症
症候性てんかんでは、失明や旋回、歩行異常など発作以外の他の症状がみられることが多い傾向にあります。
おそらく症候性てんかん
3つ目に、おそらく症状性てんかんという、症候性てんかんが疑われるものの、検査上明らかな異常が認められない場合のものもあります。
たとえば、てんかんが生じる理由として頭部の外傷や脳腫瘍などが考えられるものの、MRI検査などで病因が特定できないものが当てはまります。
また、脳疾患以外が原因の発作としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 電解質バランスの異常
- 心臓疾患
- 中毒
脳自体に問題がない場合も、これらの病気によって脳がダメージを受けることでてんかん発作が起こると考えられています。
そのほか、おそらく症候性てんかんに含まれない低血糖症や重度の腎不全、肝不全などが原因として震えが起こることもあるため、原因を突き止めるためには獣医師の判断が必須となります。
参照元:日本獣医学会|てんかんと血中マグネシウム濃度の関係
速やかに動物病院を受診するべき重篤なてんかんの症状
犬がてんかんを引き起こしたとき、以下のような症状が見られた場合は危険な状態です。
容態が急に悪化するケースもあるため、症状がみられる場合は速やかにかかりつけの動物病院を受診してください。
24時間以内に複数回以上のてんかん発作が起こる群発発作
群発発作とは、24時間以内に複数回以上の発作が起こることを指します。このような発作をおこした場合、致死的な状況に陥る可能性があります。速やかに獣医師に相談しましょう。
群発発作や後述する重積発作を繰り返せば脳損傷が進行してしまうため、抗てんかん薬による治療の早急な開始が必要です。
1回のてんかん発作が5分以上続く重積発作
1回のてんかん発作が5分以上続く、重積発作を引き起こしている場合も要注意です。また、1回の発作の後、すぐに次の発作が始まるという場合も同様です。
重積発作を放置した場合、脳の壊死などによって一刻を争う事態に直結する恐れがあるため、迷わず動物病院を受診してください。
てんかんの治療にかかる費用はペット保険の補償対象となるケースも
犬のてんかんの治療にかかる費用は、ペット保険によっては補償対象となるケースがあります。突然の入院や、高額な治療費がかかった場合などの備えの1つとして頼りになるでしょう。
※保険会社や発症のケースによって補償対象外となる場合もあります。詳細は加入中または加入を検討しているペット保険会社へお問い合わせください
てんかんの主な治療は服薬による発作のコントロール
犬のてんかんは、主に抗てんかん薬による内科的治療を行います。
ただし、低血糖や腎不全、肝不全やミネラルの異常などが原因で発作が起きている場合、原因となる症状が治療できなければ発作のコントロールは難しいでしょう。
脳が原因の場合、抗てんかん以外の投薬が必要になるケースもあります。
犬で使用される抗てんかん薬は、年齢や状態、てんかんの発作の種類や投与方法などによって異なります。そのため、発作が減らない、もしくは増えたからといって飼い主の勝手な判断で投薬量を変えれば、状態が急変しかねません。
定期的に検診して、服用については必ず獣医師と相談してください。
犬のてんかん治療にかかった費用の事例
犬のてんかん疑いで動物病院を受診した場合、血液検査やMRI検査などが必要に応じて行われます。
てんかんの疑いで来院した場合
- 初診料・・・約1,000円
- 血液検査・・・約4,000円
- 尿検査・・・約1,000円
- レントゲン検査・・・約3,000円
- 心電図検査・・・約2,000円
- 合計・・・約11,000円(薬代などを除く)
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
初診時に判断がつかない場合は、後日MRI検査やCT検査、脳脊髄液検査などを行うため、数万円の医療費がかかります。また、てんかんとともに疑われる疾患や合併症などによって、検査項目が増えればさらに高額になる可能性もあるでしょう。
なお、上記の治療費等はあくまで一例であり、各項目の金額は動物病院によって異なります。
てんかんの治療費を補償してもらえるペット保険もある
てんかんにかかる治療費への備えとして、ペット保険はとても頼りになるでしょう。
てんかんを引き起こした際の治療費を補償してくれるかどうかは、それぞれのペット保険会社によって異なります。
てんかん発症後は保険の加入ハードルが高くなるため、愛犬が元気なうちにペット保険の加入を検討しておきましょう。
一方で加入できない場合や補償対象外となる可能性も
一方で、てんかんの持病がある犬は加入できない、もしくはてんかんに関する治療費用を補償対象外としているペット保険があります。
また、ペット保険によっては、補償対象外項目にてんかんが明記されていない保険会社であっても、てんかんになった後からは契約更新できないなどのケースもあります。
こうしたペット保険では、加入後にてんかんが見つかったとしても治療費は自己負担になってしまうことが考えられるため、注意が必要です。
将来的にてんかん治療が必要になった際の補償を目的にペット保険の加入先を検討する際には、重要事項説明書や約款の補償対象外項目に、てんかんが含まれていないか問い合わせてみると良いでしょう。
以下の記事では、ペット保険各社の補償対象外に関して比較しています。ペット保険を検討する際は参考にしてください。
犬がてんかん発作を起こしたときの適切な対処方法
犬がてんかん発作を起こした場合、症状を悪化させないために落ちついて冷静な対処が求められます。最後に、発作時の適切な対処法について解説します。
周囲が安全なことを確認して触らずに様子を見守る
犬が発作を起こした場合、触らずに様子を見守りましょう。犬は無意識にけいれんしている事が多いため、万が一何かにぶつかったら怪我につながりかねません。
周囲に犬があたってケガをする危険性のある物は移動させたり、犬の体の周りにクッションを置いたりすると良いでしょう。
また、飼い主の留守中に発作が起きて傷を負わないよう、出かける際はケージに入れて移動範囲を限定する、見守りカメラを設置するなどの対策をおすすめします。
発作のきっかけや様子を時間などとともにメモしておくとよい
てんかんによる発作が始まったとき、発作のきっかけや発作時間、発作を起こす前と後との違いなどについてメモをとっておきましょう。細かい情報であるほど、治療の手助けになります。
可能な限り、発作の前兆や様子、犬の表情がわかるよう動画に撮っておくこともおすすめします。
体を押さえたりゆすったりするのはNG
発作が酷いからといって、体を押さえたり、ゆすったりするのは控えましょう。犬の体に触れると、それが新たな刺激となり、次の発作を誘発する原因となりかねません。
また、発作中の犬は意識が混濁しているため、本気で噛まれる危険性があります。発作中は、むやみに顔の周りに触らないようにしてください。
監修者からのコメント
犬のてんかんは、脳内の神経細胞が異常に活性化することによって発作を繰り返してしまう脳の病気です。
こうした発作が起こった場合には、動物病院の診察を受けて脳疾患によるてんかん発作なのか、別の疾患の可能性があるのか検査してもらいましょう。
そして、てんかん発作と診断された場合には獣医師の説明を聞いたり、自身で情報収集したりして、てんかんという病気を正しく理解することが大切です。
愛犬のいつもと違う様子や突然痙攣発作を起こしている状況を目の当たりにして多くの飼い主さんは不安を抱えると思いますが、発作の原因や対処法などをしっかりと理解しておくことで解消されるでしょう。
てんかんの治療は長期間にわたり、費用も高額になりますが、ペット保険などを活用することで積極的な治療を行うことができます。
愛犬の健康な生活を守るのは飼い主の役目です。
正しい知識を持って、てんかんという病気に向き合っていきましょう。
まとめ
犬のてんかんは、必ずしも寿命の短さには繋がりませんが、症状によっては命にかかわる重篤な状態を引き起こす恐れがあります。
特に1日に何度も発症する場合や30分以上発作が続く場合は緊急性が高いため、速やかに動物病院を受診してください。
また、いざというときに備える方法の1つとして、ペット保険の加入を考えてみることをおすすめします。