飼い犬や飼い猫のさまざまな病気のリスクや、望まない妊娠を避けるため、去勢手術や避妊手術を検討する人も多いのではないでしょうか。
しかし、これらの手術がペット保険の補償対象外であることをご存知ですか?
本記事で、手術を受けることのメリットやデメリットと合わせて解説します。
犬や猫の去勢手術・避妊手術はペット保険の補償対象外
犬、猫の去勢手術、避妊手術はペット保険の補償対象外になります。
基本的に、ペット保険は病気やケガにかかる治療費をカバーする保険であるため、健康体にする去勢手術、避妊手術は補償対象外となるのです。
他の病気などの治療の一環として去勢手術、避妊手術を行う場合は補償対象になることもあります。
例えば乳腺腫瘍の治療のために行う場合などが考えられます。
ただし、治療の一環として去勢手術、避妊手術が補償対象になるかはそれぞれの場合に応じて、ペット保険会社が判断をするため、事前に保険会社に確認をするようにしましょう。
飼い始めの犬や猫にかかるさまざまな費用は、ペット保険の補償対象外であることも少なくありません。
ペット保険が補償の対象外としている項目について、詳しくは下記記事でご確認ください。
将来的に重篤化する可能性の高い停留精巣も補償の対象外となる
停留精巣とは、一般的には月齢3ヶ月から6ヶ月の子犬や子猫が発症する病気で、片側または両側の精巣が下降しない状態のことをいいます。潜在精巣や陰睾など、さまざまな呼び名があります。
停留精巣は将来的に腫瘍化する危険性があるため、治療の一環として去勢手術を行う場合もありますが、この場合にかかる費用もペット保険では基本的に補償対象外になります。
ペット保険では基本的に補償対象外。でも実施率は年々向上している
ペット保険では補償対象外の去勢手術、避妊手術ですが、実施率は年々増加しているようです。
環境省の調査によると「犬の不妊去勢措置の実施率」において「手術を受けている」と回答した割合は1979年は7.7%でしたが、2011年には39.6%(インターネット)、38.1%(電話調査)になっています。
「猫の不妊去勢措置の実施率」において「手術を受けている」と回答した割合は1979年は10.7%でしたが、2011年には73.0%(インターネット)、78.1%(電話調査)となっています。
参照元|環境省 中央環境審議会動物愛護部会|動物愛護管理のあり方検討小委員会(第19回)議事要旨 配付資料
保険適用外でも手術は必要?愛犬・愛猫に去勢手術を受けさせるメリット
愛犬や愛猫に手術を受けさせることをイメージすると、かわいそうな気持ちになってしまうことも考えられますが、去勢手術にはさまざまなメリットがあります。
発情に伴うストレスを軽減できる
まず挙げられるメリットが、去勢をしていないことによって生じるストレスを軽減できることです。
ペットとして飼育していると、発情しても発散してあげることが難しく、それは犬や猫にとって大きなストレスに繋がり得るものですが、去勢手術によって軽減させることができます。
攻撃性を減らせる可能性がある
また、去勢手術を行うことで、吠えたり噛んだりといった攻撃的な行動を一定抑えられる場合があります。
しかし、攻撃性に関しては、血統や種類、飼育環境によって左右される側面も大きく、去勢手術を行えば必ず穏やかな性格になるわけではないため、注意が必要です。
さまざまなオス特有の病気の予防に繋がる
発症に性ホルモンの分泌が影響している精巣腫瘍や、肛門周囲腺腫、前立腺肥大など、オス特有のさまざまな病気の予防にも繋がります。
特に先述した停留精巣の場合、お腹の中に残った精巣が高い確率でがん化することがわかっているため、長生きしてもらうためにも、積極的に去勢手術を検討することをおすすめします。
マーキング行動を抑えることができる
性的な成熟が進むと、縄張り意識が強くなることからマーキング行動が見られるようになります。
早いタイミングで去勢手術を行うことで、ホルモンの分泌を抑えて、マーキング行動を抑えることができます。
しかし、手術するタイミングが遅れ、マーキング行動が習慣化してしまうと、去勢手術をしても収まらない場合もあるため、タイミングを逃さないことが重要になります。
愛犬・愛猫に避妊手術を受けさせるメリット
メスの愛犬・愛猫に避妊手術を受けさせることもまた、去勢手術と同様に多くのメリットがあります。
発情に伴うストレスの軽減など、去勢手術と共通するメリットの他に、避妊手術ならではのメリットをご紹介します。
望まない妊娠を防ぐことができる
発情に伴う脱走や、ドッグラン、多頭飼いなどで避妊去勢手術をしていない犬や猫と同じ環境になった場合、飼い主の気づかない内に妊娠してしまうケースも考えられます。
また、犬や猫は多くの場合、1度に5頭から6頭と複数の子供を産むため、出産した際にはそれぞれ飼い主を見つけないといけなくなります。
望まない妊娠に繋がることのないよう、避妊手術を検討しましょう。
さまざまなメス特有の病気の予防に繋がる
避妊手術により卵巣や子宮を摘出することで、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症、卵巣嚢腫や顆粒膜細胞腫など、メス特有の病気を予防することにも繋がります。中には、発情をする前に手術を済ませることで、発症のリスクを限りなく低く抑えることのできる病気もあるため、非常にメリットが大きいといえるでしょう。
出血によるトラブル等をなくすことができる
また発情出血といわれる出血によって、対処をしたり部屋を汚したりする心配がなくなることもメリットとして大きいでしょう。発情出血が起こると1週間から2週間ほど続き、他のオスの犬を刺激してしまうため、犬同士のトラブルにも繋がりやすくなってしまいます。
あらかじめ避妊手術を行えば、こういったトラブルを未然に防ぐことにも繋がるのです。
念のため去勢手術・避妊手術を受けさせるデメリットも確認しよう
愛犬、愛猫を飼いやすくしたり、長生きさせたりする上でメリットの多い去勢手術、避妊手術ですが、一方でデメリットもいくつかあります。
大きなデメリットはありませんが、手術を受けさせる前にきちんと確認しておくことで、後悔に繋がらないようにしましょう。
繁殖させることができなくなる
まずデメリットとして挙げられるのが、去勢手術・避妊手術を行えば当然ながら繁殖させられなくなってしまう点です。
飼っている犬や猫に子供を産ませて繁殖させたい意志がある場合、手術を受けさせることはできません。
手術時の全身麻酔やメス入れによる体調不良を起こす可能性がある
去勢手術、避妊手術を行う際には全身麻酔をかける必要があります。またメスを入れて手術を行うため、術後に傷口からの感染などもあり得ることから、体調不良のリスクは拭えません。
動物病院側も慣れている手術であるとはいえ、犬や猫の身体に一定の負担はかかるため、術前の検査などをきちんと行ってもらい、万全な状態で手術に臨むことが重要です。
体重が増えやすくなるといわれている
ホルモンの変化や、発情時の運動が減ることによって、太りやすくなるといわれています。
手術をしたあとは、ご飯の量を調整したり、犬の場合は散歩、猫の場合はキャットタワーの設置などで運動をさせてあげる機会を設けるようにしましょう。
いつから手術可能?犬や猫に去勢手術・避妊手術を受けさせるべき時期
犬も猫も、去勢手術や避妊手術を受けるのに適したタイミングがあります。
さまざまな病気を防ぐためにも、この時期を逃すことのないよう注意しましょう。
去勢手術|犬・猫ともに生後6ヶ月前後に行うケースが多い
去勢手術は何歳のときに受けなくてはいけないといったことはありません。
しかし、小型犬、中型犬は性成熟する前の生後6カ月前後で受けることが多いようです。大型犬、超大型犬の場合は、早く去勢を行ってしまうと骨格形成に悪影響を与えることもあるため、少なくとも生後10カ月は経過した後に受けることをおすすめします。
猫は生後6~7カ月で性成熟して、発情行動が見られるようになります。そのため生後6ヶ月前後で行われるのが一般的です。
ただし、手術を受けるのに適したタイミングは、犬や猫の種類や成長状態などによって異なるため、獣医師などの専門家に相談をして決めるようにしましょう。
避妊手術|犬・猫ともに生後半年頃を目安に行うことが多い
犬の避妊手術は、一般的に生後6ヶ月前後で行われるケースが多いです。生後6ヶ月~10ヶ月で発情を迎えますが、この時期より前に避妊手術を行うことで乳腺腫瘍を高い確率で予防できるといわれています。
猫の場合、生後6ヶ月~8ヶ月頃が避妊手術に適しています。
避妊手術の時期は、成長状態や体調などに考慮して決める必要があるため、動物病院などに相談をしてタイミングを決めましょう。
犬や猫の去勢手術・避妊手術にかかる費用は1万円から3万円前後が多い
日本獣医師会の調査によると犬の去勢の32.5%が15,000~20,000円未満になっています。猫の去勢は37.3%が10,000~15,000円未満になっています。
犬、猫の大きさや手術の内容などによって費用は異なるため、事前に動物病院に確認をしておきましょう。
日本獣医師会の調査によると犬の不妊手術で卵巣切除の場合、9.2%が25,000~30,000円未満、卵巣子宮切除の場合では27.3%で25,000~30,000円未満になっています。
猫の不妊手術での卵巣切除では12.6%が20,000~25,000円未満、卵巣切除の場合は31.2%が20,000~25,000円未満です。
参照元|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査調査結果
保険適用の対象外でありながら自治体による手術費用の助成も!
犬、猫の去勢手術、避妊手術には補助金を設けている自治体などがあります。例えば東京都新宿区では、申請対象者が「猫の飼い主及び区内で猫を世話している新宿区民(在住、在学、在勤等)の方」といった条件はあるものの、「飼い猫 オス2,500円 メス4,000円」「飼い主のいない猫 オス5,000円 メス9,000円」の助成があります。(2021年6月現在)
このように自治体が補助金を設けている可能性があるため、去勢手術、避妊手術を検討する場合、住んでいる自治体などの補助金を調べることをおすすめします。
参考元:新宿区|犬・猫・ペットについて
犬や猫の去勢手術・避妊手術の流れと必要な準備
ペットの犬や猫にとってメリットも多く、ペット保険の補償対象外でありながら自治体によっては補助金が出ることもある去勢手術や避妊手術。
受けさせることを具体的に検討する際には、手術前後の流れや内容についてきちんと把握して必要な準備を進めておきましょう。
手術前|全身麻酔をするため手術前12時間は絶食させる
去勢手術、避妊手術を行う前日は、ペットにいつもと違う様子がないか確認をして、健康な状態で手術を受けられるようにしましょう。
また、手術前の12時間程度は、全身麻酔時の嘔吐による誤嚥を防ぐため、絶食を求められるケースが多いです。
合わせて当日の絶水を求められることもありますので、時間などについては獣医師に確認しておきましょう。
手術当日|去勢手術は30分前後・避妊手術は1時間前後で終わる
去勢手術の所要時間は、犬の場合およそ30分から40分前後、猫の場合は30分前後、避妊手術の場合は、犬も猫も1時間から1時間半程度が目安になります。
去勢手術の具体的な内容
犬は陰嚢の前の皮膚を切開、猫では陰嚢自体を皮膚切開をして精巣を摘出します。
猫ちゃんの去勢手術の場合、傷口の癒合が早いのと、陰嚢を縫うと余計気にするため、縫合は行っておりません。
避妊手術の具体的な内容
おへそから下の皮膚を切開後、開腹して卵巣のみ or 卵巣と子宮を摘出します。
まず、体の外側からお腹の皮膚→皮下組織→筋肉(腹膜と腹筋)を切開していきます。
卵巣と子宮を摘出したら、開腹した順番とは逆に、体の内側から筋肉(腹膜と腹筋)→皮下組織→お腹の皮膚の順に縫合していきます。
手術後|早ければ当日中に自宅へ!経過観察のため1泊することも
手術後、麻酔から覚醒次第、異常がないか状態を確認し、問題がなければ数時間で自宅に戻ることができます。
術後の対応は病院によって異なりますが、犬や猫の状態次第で、1泊入院をして経過観察をするケースもあります。
獣医師から見た避妊・去勢手術
犬や猫を家族として迎え入れて、多くの人が悩むのが「避妊去勢手術を受けるか否か」だと思います。
避妊去勢手術を受けることで、さまざまな病気の予防やトラブル回避が期待できる反面、手術に伴うリスクや体重の増加など、向き合わなくてはならない課題もたくさんあります。
避妊去勢手術を受けるか否かに正解はありません。
一番大切なのはご家族が正しい知識を持ちながら、しっかりと納得した上で判断するということです。
手術の内容だけでなく、術後のケアや今後の生活のことなど、不安なことや分からないことがありましたら、動物病院など専門家にご相談ください。
動物病院は病気やワクチンのためだけに行くのではなく、お散歩の途中におやつをもらったり、体重だけを測ってみたり、なんでもないときに立ち寄って良い場所でもあります。
これから長く一緒に暮らしていく新しい家族のために、ぜひ後悔のない選択をお願いします。
まとめ|将来的にかかるペットの治療費に備えて保険の検討はお早めに
犬、猫の去勢手術、避妊手術は停留精巣も含め、基本的にペット保険では補償対象外になりますが、自治体などで補助金が出されている場合もあるようです。
犬や猫の避妊手術・去勢手術を検討している方は一度自治体のHPなどを確認してみてください。
去勢手術・避妊手術の検討と合わせて、将来的にペットにかかる治療費に備えたペット保険の加入先も検討しておくと良いでしょう。
加入の適切なタイミングや、注意点についてはこちらの記事をご覧ください。
本記事の内容はすべて2021年10月05日時点のものです。