症例編

【獣医師監修】猫がよだれをたらす原因として考えられる病気や受診の目安|診療費の事例とあわせて解説

猫がたらすよだれは、その状態によっては深刻な病気が潜んでいる場合があり、速やかな動物病院の受診が求められます。

この記事では、猫がよだれをたらす原因や考えられる病気、診療費への備えとして活用できるペット保険について解説します。

猫がよだれをたらす原因

かごから顔を出す猫
猫がたらすよだれには、さまざま原因があります。
必ず病気に直結するものではなく、生理的な要因でたらす場合もあるため、他の症状がみられないか注視しておきましょう。

まずは、猫がよだれをたらす原因のうち、病気以外のものについて解説します。

空腹時に唾液の分泌が増える

病気以外のよだれの原因としてまず挙げられるのが、空腹です。

人と同じように、猫も空腹時には消化の準備として唾液の分泌量が増えますが、これは一時的な生理現象で、フードを与えれば症状は落ち着きます。

ただし、空腹時間が長引くと、胃液や胆汁などを吐いてしまう恐れがあるため注意してください。

また、よだれをたらしているのにフードを食べようとしない場合は、原因が異なる可能性があります。
猫の様子に異変を感じる場合は、早めにかかりつけの獣医師に相談しましょう。

辛いものや苦いものからの刺激

猫は辛いものや苦いものなどの刺激物を口にした時も、よだれの分泌量が増えます。

猫は苦味や塩味、酸味を感じ取れる生き物で、特に苦味や酸味を嫌う傾向があります。そのため、苦い薬などを摂取した際は、口内の苦味を和らげようとしてよだれを増やすこともあります。

苦い薬を飲ませる場合は、フードに混ぜる、水に溶いてシリンジなどで投薬するなど工夫してあげましょう。
参照元:ALL動物病院行徳|犬と猫は人と同じように味を感じるの?

興奮して交感神経が刺激された

興奮状態にある猫もよだれをたらすことがありますが、これは交感神経が刺激されていることによるものです。

同様に、慣れない場所や苦手な動物病院などでストレスを感じたり、過度に緊張したりした場合も交感神経が刺激されるため、よだれをたらします。

ストレス状態が長引くと健康寿命を縮めてしまう恐れがあるため、猫のよだれが激しいなと気づいた場合は、その原因を取り除いてあげるようにしましょう。

参照元:きよかわ動物病院|猫のよだれや口臭がくさいとき

よだれをたらしている猫に考えられる病気

手をなめる白猫
猫がよだれをたらしている場合、何らかの病気のサインである可能性も考えられます。
ここからは、よだれをたらしている猫に考えられる病気について解説します。

歯周病や歯肉炎などの口腔内疾患

まず考えられる病気としては、歯周病や歯肉炎などの口腔内疾患が発生している可能性が挙げられます。

歯肉炎とは歯肉が赤く腫れた状態を指し、歯肉炎が進行して、歯の周辺組織にまで炎症が起こったものを歯周病といいます。

一般的に、2歳以上の猫の約70%以上に何らかの歯周病の兆候が認められるといわれており、発症している場合は主に以下のような症状がみられます。

猫の歯周病における主な症状
  • 歯肉の腫れ
  • よだれ
  • 口臭
  • フードを食べにくそうにしている
  • 食欲の低下

歯周病を放置すると、口内環境の悪化だけでなく、歯周病菌が全身に巡って腎臓などへ悪影響を及ぼすリスクがあるため注意が必要です。

参照元:国立研究開発法人 科学技術振興機構|猫における歯石付着率と歯周病発生率に関する調査
参照元:アミカペットクリニック|口腔内疾患の種類

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食道や消化管の疾患

食道や消化管の疾患も、よだれを伴うことが多い病気の1つです。
例えば、食道炎を発症している場合、以下のような症状がみられます。

猫の食道炎の主な症状
  • よだれ
  • 食欲の低下
  • 吐出(または吐き気)
  • 脱水症状

食道炎は、食べ物を飲み込むたびに痛みが走るため、食欲や飲水量が低下します。場合によっては、体重の減少や脱水、食道狭窄などを引き起こしかねないため、動物病院での治療が必要です。

参照元:壱岐動物病院|食道炎

消化器疾患などによる吐き気

炎症性腸疾患(IBD)などの消化器疾患による気持ち悪さから、よだれをたらしている場合も考えられます。

消化器疾患を患った場合、症状によっては嘔吐や食欲不振を伴う場合がありますが、吐こうとしても吐けない状態が続いて多量のよだれをたらすことも珍しくありません。

例えば、炎症性腸疾患を発症している場合、以下のような症状がみられます。

炎症性腸疾患の主な症状
  • 嘔吐
  • 血便
  • 下痢
  • 食欲の低下
  • 体重の減少
  • 腹水(重度の場合)

治療の期間が長期化しやすい病気であるため、獣医師と相談しながら症状にあわせた治療を受けることをおすすめします。

参照元:あさくさばし動物病院|IBD(炎症性腸疾患)

中毒症状

タマネギやチョコレートなど、猫にとって毒性のある物を食べたことが原因で、よだれをたらしている場合もあります。

猫の中毒症状の例
  • 嘔吐
  • 下痢
  • よだれ
  • 貧血

食べた量や飲み込んだ種類によっては、腎不全や肝不全なども引き起こしかねません。
人間にとっては身近な物でも、猫には中毒症状が起こる可能性があるため、猫が食べることのないよう普段から飼育環境を整えておきましょう。

毒性のある物を食べた疑いがある場合は、直ちに獣医師に相談することをおすすめします。

参照元:アクア動物病院|犬や猫に与えてはいけない食べ物

腎機能不全

腎臓病を患っている場合も、よだれが生じます。

猫の腎臓病には、急性腎不全と慢性腎不全があります。
急性の場合、短期間で腎機能が低下してしまうため、嘔吐や痙攣など急激に重篤な症状がみられるのが特徴です。

猫の急性腎不全の主な症状
  • 多飲多尿(初期)
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 口内炎
  • 食欲の低下
  • よだれ

一方、慢性の場合は長い時間をかけて腎臓機能が破壊されていきます。
腎臓は、機能の約7割を失うまでは症状が目立ちにくい臓器です。そのため、以下のような症状がみられた場合は、すでに末期状態であることも少なくありません。

慢性腎不全の主な症状
  • 多飲多尿
  • 嘔吐
  • よだれ
  • 食欲の低下
  • 食欲の低下
  • 体重の減少

特に慢性腎不全は早期発見が極めて大切であるため、いつもより水を飲んでいる、尿量が多いなど気になる行動がみられたら、速やかに獣医師に相談することをおすすめします。

参照元:壱岐動物病院|急性腎不全(急性腎障害)
参照元:つだ動物病院|猫の慢性腎不全〈概要編〉

ペット保険 腎不全
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熱中症

熱中症も、猫のよだれを誘発する疾患の1つです。

猫は汗をかくのが苦手な生き物であるため、暑い時期や湿度が高い場所に長時間いると、体温調節がうまくできずに熱中症になります。

熱中症を発症した場合、以下のような症状がみられます。

猫の熱中症の主な症状
  • 浅くて激しい呼吸
  • よだれ
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 元気の消失

放置すると、脱水症状や意識障害、ショック症状などを引き起こしかねません。
熱中症には早めの対処が求められるため、上記の症状がみられたら速やかに動物病院へ向かいましょう。

参照元:すわ動物病院|犬猫の熱中症

猫のよだれの状態から考えられる原因

脚立に載る猫
猫がよだれをたらしている場合、その色などから猫の状態を判断できることがあります。
よだれの状態ごとに考えられる原因について、解説します。

サラサラして透明

サラサラの唾液は、リラックスしている時に働く副交感神経が活発化した結果であり、基本的に心配ありません。

サラサラして透明なよだれは、猫がリラックスしている証拠です。
一般的に、飼い主に甘えている時やグルーミングをしている時などにみられます。

一方で、よだれが止まらない、食欲の低下がみられるなどの場合は体調の異常が考えられるため、獣医師に相談しましょう。

ネバネバしている

猫がストレスを感じていたり、緊張していたりと、神経が興奮している時はネバネバしたよだれが出ることがあります。
これは、交感神経が優位になることで、粘性の高い唾液が分泌されるからです。

他に症状がなく、普段と変わらず元気や食欲がある場合は、ストレスや緊張の原因を緩和してあげることで改善されるでしょう。

なお、慢性的に続く場合は何らかの疾患が疑われるため、動物病院で検査をしてみることをおすすめします。

茶色い・血が混じっている

茶色いよだれや、血が混じったよだれをたらしている場合、口腔内が傷ついている、もしくは炎症を起こしている可能性が考えられます。
また、口腔内腫瘍など緊急性の高い病気を発症している場合もあります。

いずれにしても放置すると危険であるため、よだれに血が混じっている場合は速やかにかかりつけの獣医師に相談して、出血の原因を突き止めてください。

緑色や黄色っぽい

よだれが緑色や黄色っぽい場合、ウイルスや細菌に感染した可能性が考えられます。
また、難治性口内炎などの口内トラブルを発症しているかもしれません。

難治性口内炎の場合、膿のような黄色っぽいよだれに加えて、潰瘍や出血などがみられることもあります。
歯周病と併発することも多いため、症状が進行する前に速やかに動物病院で適切な処置を施すことをおすすめします。

参照元:PEPPYvet|症状から見つける猫の病気「よだれや口臭がひどい」

よだれがくさい

猫のよだれが臭い場合、歯石や歯垢が溜まっている以外に、歯周病や口内炎、口腔内腫瘍などの病気が考えられます。
特に歯周病は万病の元ともいわれるため、早めに口内環境をケアしてあげましょう。

また、アンモニアのような刺激的な口臭の場合、腎不全や尿毒症を発症している可能性もあります。

参照元:ふじわら動物病院|猫ちゃんの腎臓病と口臭

猫がよだれをたらしている時の対処法

キャットタワー上の猫
ここでは、猫がよだれをたらしている時の対処法について紹介します。
症状を悪化させないために、慌てず適切な処置を進めましょう。

口内に炎症がないか確認する

猫がよだれをたらしている時の対処法として、まずは口内に炎症がないかなどについてチェックすることが大切です。

猫の口内をチェックする時の項目
  • 歯肉の色
  • 歯石や歯垢の有無
  • 口臭
  • よだれの量
  • フードの食べ方(よくこぼす、片側だけで食べるなど) 
  • できものの有無 

口内に赤みや腫れなど、少しでも怪しい様子がみられる場合は、症状が悪化する前にかかりつけの動物病院に連れていきましょう。

参照元:長者原動物病院|自宅でできるペット健康管理(ボディチェック)

口内に炎症がみられない場合には別の病気の可能性も

口内に炎症などがみられない場合には、別の病気を患っている可能性もあります。

消化器疾患や中毒症状など、さまざまな病気が考えられるため、よだれ以外にも普段と違う様子がみられる場合には注意が必要です。

食欲不振や嘔吐など別の症状がみられる場合には速やかに受診する

よだれ以外に、食欲不振や嘔吐など別の症状がみられる場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。

特に中毒症状を起こしている場合は、食べた量や種類によっては緊急性が高く、迅速な対処が求められます。
受診する前に症状を動画撮影したり、食事量や飲水量、排便や排尿の量・頻度などをメモしたりしておくと、正しい診断の手がかりになります。

猫のよだれにかかわる疾患には診療費がペット保険で補償されるものも

目をつぶる猫
猫がよだれをたらす場合、原因や治療期間によっては診療費が高額になる可能性もあります。

猫のよだれにかかわる疾患にはペット保険で補償されるものもあるため、ペット保険への加入を検討しておくことをおすすめします。

よだれが症状としてみられる病気の診療費事例

猫のよだれが症状としてみられる病気の診療費は、原因や病気の進行度によって異なります。
例えば、猫のよだれの原因が中等度歯周病である場合、スケーリングや数本の抜歯などの歯科処置が行われるため、以下のような診療費が想定されます。

歯周病治療で通院した場合

  • 全身麻酔管理代……26,000円
  • 術中検査代……7,500円
  • マイクロスコープ使用代……10,000円
  • 中等度歯周病(数本の抜歯を含む)……40,000円〜80,000円

合計……83,500円~123,500円

参照元:パーク動物病院 愛知動物歯科|料金表
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります

抜歯数が増えれば、さらに費用が高額になるでしょう。
また、猫のよだれの原因が慢性腎不全である場合、検査を含めて以下のような診療費がかかります。

よだれの原因が慢性腎不全である場合

  • 診察料……約1,000円
  • 血液検査……約4,000円
  • 尿検査……約1,000円
  • 超音波検査……約3,000円
  • レントゲン検査……約3,000円
  • 点滴……約1,000円

合計……約13,000円(処方薬代などを除く)

参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査(平成27年度)
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります

慢性腎不全は、長期的な治療が必要となるため費用が高額になりやすい傾向にあります。

疾患によっては補償の対象外となる場合もあるため注意

急な診療費などに活用できるペット保険ですが、保険会社によっては補償の対象外となる疾患もあります。

例えば、歯周病や歯肉炎など、歯科治療自体を補償の対象外と定めているペット保険もあります。

ペット保険の加入を検討する際は、各保険会社の補償内容などについて、重要事項説明書や約款で確認し、しっかり比較検討することをおすすめします。

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監修担当の獣医師より

小島 麻里 先生

猫は、健康な状態でも興奮した時やリラックスしている時によだれが出ることはあります。
しかし同時に食欲がない・いつもと様子が違うなどの症状があれば、重大な病気が隠れている可能性があるので速やかに動物病院へ相談しましょう。

よだれが出るもっとも身近な病気は、歯肉口内炎などの歯周病をはじめとする口腔内のトラブルです。

口の中に問題がある場合、猫は口を触られるのを嫌がることが多いです。
普段からコミニュケーションの一貫として、口の中を見たり開けたりする習慣をつけるのもオススメです。

まとめ

猫がよだれをたらす場合、一時的な生理現象ならば心配する必要はありません。
しかし、よだれが大量に出る、よだれに血が混じっているなどの場合は、深刻な状態を示している可能性が考えられます。

症状が進行するほど治療が困難になるため、普段と違うよだれがみられる場合は速やかに獣医師に相談しましょう。

また、よだれを症状とする病気は多く、中には高額な診療費がかかる場合もあるため、急な診療費への備えとしてペット保険を検討しておくこともおすすめします。

ABOUT ME
記事監修|小島 麻里 先生
酪農学園大学獣医学部獣医学科を卒業後、10年間小動物臨床に従事。 地域密着型の1次病院で経験を積み、東京大学動物医療センターで内科系研修医と並行して臨床研究を行う。 潜水士およびペット管理栄養士取得。7歳になる保護猫2匹(おもち・だんご)と暮らす。 めい動物病院

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