ペットが病気や怪我をしたときに診療費の助けになるペット保険ですが、まだ加入率は高くはありません。
そこで、ペット保険についての基本情報からペット保険を選ぶポイントまで、現役の獣医師が解説していきます。
ぜひご覧いただき、ペット保険選びの参考にしてください。

ペット保険は必要?いざという時のために加入者は増えている
ペットが病気になってしまった時に、診療費が高額になってしまうことがあります。
ここでは、そんな時に助けになるペット保険の基本情報をご紹介します。
ペットの病気にかかる診療費の備えにはペット保険が活用できる
ペット保険とは文字通り、毎月の保険料を保険会社に支払うことで、ペットが病気になってしまった時の診療費を補償してもらうことができる仕組みのことです。
人間の健康保険の場合、日本では「国民皆保険制度」の下で国民全員が健康保険に必ず加入することになっており、万が一病気で治療を受けることになっても、原則3割の自己負担額で、少ない経済的負担のもと治療を受けることができます。しかし、ペットの場合はこの制度がないため、病気になった時の診療費負担を軽減したい場合には、民間の保険会社が運営するペット保険に加入する必要があります。
ペット保険の加入率は〇〇%!診療費の高額化に伴い加入率も上昇傾向にある
ペット保険の加入率は年々上昇傾向にあり、2016年には6.7%だった加入率は2020年には倍近い12.2%にまで上昇しています。
この加入率上昇の背景には、高度化する獣医療とそれに伴い高まる診療費があると考えられます。たとえばペットのがんの切除や骨折の整復手術で一度に何十万円もの費用が必要になるケースもありますので、そのような時にはペット保険に加入していると安心です。
参照元|アニコム損保:日本初、ペット保険の契約件数が100万件を突破
ペット保険に加入して良かったと感じる人と後悔する人の特徴
ペット保険に実際に加入した人の中には「加入して良かった」と感じている人もいれば、「加入しなければよかった」と後悔している人もいます。
ここではそれぞれのパターンの特徴をご紹介します。
加入して良かったと感じる人の特徴
ペット保険に加入して良かったと感じるのは、加入により診療費の負担が減ったことにより、ペットに適切な治療を受けさせることができ、ペットの命が救われたり、ペットが不自由なく生活できるようになったりしたような人に多いです。
実際、犬や猫に難しい手術をする場合、手術費用やその後の入院・通院費用を含めて何十万円もかかってしまうことも珍しくありません。このような高額な費用をすぐに捻出できる人は少ないため、そういった人はペット保険に加入していて良かったと感じる傾向にあります。
加入して後悔を感じる人の特徴
ペット保険に加入して後悔を感じるのは、保険が適用されるような機会がなく、保険金を受け取ることがなかった人に多いです。
しかし、これはペットが大きな病気にかかることなく健康に過ごせたということでもあり、ペットがいつどんな病気やケガをするかは誰にもわからないため、後悔するかどうかはそのペットが生涯を終えた後にしかわからないことでもあります。
実際にペット保険を活用した人の口コミは、下記記事でもまとめて紹介しています。ぜひペット保険選びの参考にしてください。

ペット保険の加入と貯蓄、どちらがいいかで意見が分かれることが多い
人の保険でも同様ですが、ペット保険に入るよりも貯蓄の方が良いという意見もあります。
それでは、どんな人にペット保険が向いていて、どんな人に貯蓄が向いているのでしょうか?
毎月まとまった金額を貯蓄に回す余裕がある人は貯金でもOK
ペット保険には加入せず、将来的な診療費に備えて貯蓄した方が良いのではないかと言う考えもあり、ペット保険への加入において意見の分かれるポイントになっています。結論から述べると、毎月の収入がしっかりしていて、万が一の病気や怪我に伴う手術や入院にも対応できる十分な貯蓄を確保できる見込みがある人は貯蓄でも問題ないことが多いです。
高額な手術になると術後の治療も含めて30〜40万円以上もかかることもあるため、余裕を持って常に50万円程度はペット専用の貯蓄があると安心でしょう。
獣医師がペット保険の加入をおすすめしたい人の特徴
それでは反対に貯金ではなくペット保険に加入した方が良いのはどのような人なのでしょうか。
ペット保険をおすすめしたい人の特徴を2つまとめました。
高額な医療費をまかなえるほどの経済的余裕がない人
ペットの病気や怪我はいつ起こるか誰にも予想ができず、突然発生します。ある日急に発生した数十万円単位の高額な医療費を賄えるほどの収入や貯蓄がない人には、ペット保険の加入をおすすめします。加入することで、いざと言う時に金銭的理由で治療を躊躇することがなくなるだけでなく、安心感を得ることができるのも大きなメリットであるといえます。
ペットに最先端の医療を受けさせたいと考えている人
ペットの医療は、人間の医療に近い段階にまで高度化しており、例えばガンを患ったときには外科手術や抗癌剤による治療だけでなく、放射線治療なども選択肢として出てきました。
しかし、このような最先端の医療はかなり高額で、複数回の治療が必要となるだけでなく、実施できる医療機関も限られています。そこまでの治療を希望しない人もいらっしゃると思いますが、万が一の場合にこのような高度獣医療を受けさせたいと考えている人は、ペット保険の加入をおすすめします。
ペット保険で備えておくほうが安心できるペットの例
犬種が違えば、かかりやすい病気も変わってきます。
ここでは医療費が高額になりやすいペットの例を一部ご紹介いたします。
大型犬
ゴールデン・レトリーバーやシェパード、秋田犬などの大型犬を飼育されている人はペット保険の加入をおすすめします。なぜなら、大型犬は診療費が高額になりやすい傾向にあるためです。
たとえば、愛犬が継続的な薬の服用を必要とする病気を患ったとします。薬の用量は基本的に体重から算出されるため、体重が40 kgの犬の場合は体重が5 kgの犬の8倍の用量が必要になります。
必要な用量が増えれば、それに伴って薬代も増えることになります。1週間程度の内服で済む病気ならそれほど負担にはならないかもしれませんが、中には一生薬を飲み続けなくてはならない病気もあり、その場合はトータルでかなり高額な費用が必要になります。
また、大型犬の場合は手術の際にも麻酔量が多くなったり、労力が大きくなったりすることが多いため、費用が高額になりやすい傾向にあります。
大型犬におすすめのペット保険は、下記記事でも詳しく解説しています。

外飼いの猫
外飼いの猫の場合は、様々な病気や怪我のリスクがあるためペット保険の加入をおすすめします。
猫は高齢になると、かなりの確率で慢性腎臓病を発症します。これは、腎臓の機能が衰えてしまい尿をきちんと濃縮できなくなってしまう病気で、完治するものではありません。
この病気にかかると、衰えた腎機能を補うために、数日〜1週間に1回くらいの頻度で動物病院に通院して、点滴治療が必要になることが多いです。毎日の通院となると、金銭的負担も大きくなります。
また、外飼いの場合は猫同士のケンカや、交通事故などによるケガの可能性も高まります。状態によっては長期の通院や手術が必要になることもあるため、診療費が高額になるケースもあります。
このような理由から猫、特に外飼いの猫を飼育している場合はペット保険に加入したほうが良いでしょう。
特定の病気になりやすい犬種
特定の病気になることが多い犬種を飼育している人にもペット保険の加入はおすすめです。動物病院での経験を踏まえて、3つの例をご紹介します。
椎間板ヘルニアの懸念があるミニチュア・ダックスフンド
ミニチュア・ダックスフンドは胴長短足の愛らしい見た目をしていて性格も大人しく、かなり人気の高い犬種です。しかし、その短い足は「軟骨異栄養症」によって形成されています。
軟骨異栄養症は、人間では「小人症」の原因にもなる疾患で、骨の成長障害を引き起こすことにより、ミニチュア・ダックスフンドの足は短くなっているのです。この疾患により、背骨の椎間板にある髄核と呼ばれる部分が若いうちから硬くなってしまい、ある日突然それが神経を圧迫し始め、腰の痛みや足の麻痺、歩行障害を生じるようになります。
この病気は軽度であれば、痛み止めの服用と長期間安静にすることで改善が見込めますが、重症化してしまうと、大学病院や外科を得意とする病院での手術が必要になります。こうなってしまうと診療費は高額で、病院にもよりますが事前のMRI検査などで10万円、手術で20万円以上の診療費がかかってしまうことがあります。
ビーグルやコーギー、トイプードルなどの犬種も同様に、軟骨異栄養症を患っている犬種であるため、同様のリスクがあります。
ミニチュア・ダックスフンドにおすすめのペット保険は、下記記事でも詳しく解説しています。

アトピー性皮膚炎を発症しやすい犬種
柴犬やフレンチ・ブルドック、ゴールデン・レトリーバーなどの、「アトピー性皮膚炎」を発症しやすい犬種を飼っている人にもペット保険の加入はおすすめです。
アトピー性皮膚炎は、環境中の物質に対して免疫が過剰に反応して皮膚に痒みを引き起こしてしまう病気です。多くの症例では、6ヶ月から3歳くらいまでの比較的若いうちから発症し、一生涯を通じて治療が必要になる病気です。
そのため、寿命に直接関わる病気ではありませんが、長期間の治療が必要になり、最終的な診療費が高額になりやすいです。また、痒みの管理にはステロイド剤を使うこともあり、その場合の薬代は安く済みますが、長期投与では重大な副作用のリスクがあることから、最近では比較的新しい「分子標的薬」と呼ばれるジャンルの薬を使うことが多くなっています。しかし、これは比較的高額な薬で、長期間にわたって飲み続けるとなるとかなりの医療費になるため、保険による軽減があると費用的に助かる人は多いでしょう。
実際、ペット保険に加入しているおかげで治療を続けられるとおっしゃっている飼い主さんを見かけたこともあります。
膝蓋骨脱臼を発症しやすい犬種
ポメラニアンやトイプードル、ヨークシャー・テリア、チワワなどの、「膝蓋骨脱臼」を発症しやすい犬種についても、ペット保険への加入がおすすめです。
膝蓋骨脱臼は膝蓋骨が外れてしまう病気で、発症すると足を引きずったり、痛みがでたりすることがあります。軽症の場合は薬で痛みの管理をしていくこともありますが、重症化すると手術による治療の適用になります。手術するとなった場合、術前の検査や術後の治療も含めて、20万円以上の診療費がかかることもあります。
動物病院で頻繁に遭遇する病気の1つでもあるため、発症しやすい犬種を飼育している人はペット保険に加入しておくと良いでしょう。
ペット保険のデメリットや加入しないほうがいい人の特徴
ペット保険には医療費の負担が軽くなるというメリットがある一方で、デメリットもあります。
ここからはデメリットについて解説するので、加入の判断の参考にしてください。
すべての病気を補償してくれるわけではない
ペット保険に加入したとしても、ワクチンなどの予防に関するものや検査費用は補償されない場合があります。補償の範囲は保険会社によって異なりますので、加入前によく調べておきましょう。
高齢だと保険料が高くなる
ペット保険は一般的に、高齢になればなるほど月々の支払額が高くなります。そのため、ペット保険への加入を検討する場合、すでに高齢の犬を飼育している場合には加入の必要性について検討することをおすすめします。また、なるべく若いうちから加入しておいた方が良いと言えるでしょう。
補償される金額は全額ではない
ペット保険で補償される金額は、多くの場合全額ではありません。ペット保険の多くの補償割合は50〜70%です。そのため、高額な医療費がかかる場合、補償されているとはいえ、出費がそれなりに大きくなることがあります。
ペットの延命治療に抵抗感がある人にとっては不要なことも
ペットが大きな病気にかかってしまっても手術などを受けさせることに抵抗があり、受けさせる予定がない人にとってペット保険は必要ないかもしれません。
実際、がんなどの病気が見つかっても抗がん剤や外科的治療をせずに緩和治療だけでみていきたいという考え方の飼い主さんもよく見かけます。考え方は人それぞれで、そういった考え方も決して間違いではありません。
その場合、診療費は積極的に治療する場合と比べて低く抑えられますので、ペット保険に加入していなくてもそこまで問題にはならないでしょう。
すでに発症している病気の補償は受けられないことが多い
すでに発症している病気がある場合、保険の加入に際して事前に申告することになり、その病気の補償は受けられないことがほとんどです。持病がある場合は毎月の保険料も高くなることがあるため、若く病気がないうちに加入しておかないとあまり加入するメリットはないかもしれません。
獣医師がおすすめする上手なペット保険の選び方
一口にペット保険と入っていても、各社が様々なプランを用意していて多種多様です。
どのような点に着目すれば最適なペット保険を選べるのかについて解説します。
飼っているペットの種類に合わせて考える
飼育しているペットの種類に多い病気がある場合、その病気が補償の範囲内に入っているか、補償される場合は何割の補償になるのかをよく確認し、複数の保険会社のプランを比較検討すると良いでしょう。
飼っているペットに多い病気が何かは、動物病院で獣医師に聞いてみるのもいいでしょう。きっと詳しく教えてくれます。
もし病気になった場合、どこまでの治療を受けさせたいかをよく考える
もしペットががんなどの大きな病気にかかってしまった場合、どこまでの治療を受けさせたいかをよく考えておきましょう。
さらに、病気になってしまった場合にどのくらいの費用がかかりそうなのか、その費用の何割くらいまでなら捻出できるかを考えることで、必要な補償割合や補償範囲を見つけることができるでしょう。ペット保険は健康なうちに加入しないと加入に制限がかかってしまうため、なるべく飼い始めてからすぐに考えておくことが大切です。
精算に手間がかからない保険会社を選ぶ
基本的にペット保険は全国の動物病院で利用可能ですが、精算方法が異なる場合があります。精算方法には大きく分けて「窓口精算」と「後日精算」があります。窓口精算の場合は動物病院が保険金をペット保険会社に請求することになるため、会計の際には診察代から保険金を差し引いた額のみを支払うことになります。
一方で、後日精算では動物病院での会計の際には診察代全額を支払うことになります。その後、自分で領収書などをペット保険会社に送付することで、後日保険金が戻ってきます。
最終的に支払う額はどちらの精算方法でも変わりませんが、利便性は窓口精算のほうが高いため、窓口精算ができるペット保険会社をおすすめします。動物病院によって窓口精算の対応可否も異なるため、かかりつけの動物病院で窓口精算ができるペット保険会社を選ぶと良いでしょう。
ペット保険の請求方法については、こちらの記事でも詳しく解説しているため合わせてご覧ください。

まとめ
ペット保険はペットの医療費を軽減してくれるものです。
毎月まとまった額を貯蓄に回せる人はペット保険に加入せずに貯蓄で備えることもできますが、収入や貯蓄に不安のある人にはペット保険への加入をおすすめします。中でも、医療費が高額になりやすい犬種を飼っている人はペット保険に加入していた方が安心です。
ペット保険にはメリットだけでなくデメリットもあるため、両者をよく考えて加入を検討すると良いでしょう。
ペット保険会社を選ぶ際には飼っているペットの種類、どこまでの治療を求めるか、かかりつけの病院で窓口精算は可能か、などを考慮して決めると良いでしょう。
