犬の震えは、寒さや老化以外にも原因があり、特に痙攣や発熱などを伴う場合は動物病院の受診が必要です。
本記事では犬が震える原因やケースごとの対処法について、震えが原因の傷病にかかる治療費や万が一の時の備えとなるペット保険について解説します。
犬の震えにはさまざまな原因がある
犬の震えにはさまざまな原因が考えられるため、愛犬が震えている場合はその表情や様子を確認しましょう。まずは、犬が震える主な原因について解説します。
寒い
犬が震える原因としてまず挙げられるのが、寒さです。基本的に、寒さから震えることは血流を促すために行う、意識とは無関係な生理現象とされています。体中の筋肉を細かく動かすことで体温を上げて、低体温症を防ごうとしているのです。
特に、シングルコートを持つ犬種、チワワやミニチュアピンシャーのような皮下脂肪の少ない小型犬は寒さに弱い傾向があります。そのため、愛犬に合わせて温度を調節してあげましょう。
また、何らかの病気が原因で体温調節ができず震えているケースもあるため、様子がおかしいと感じた場合は動物病院で検査することをおすすめします。
恐怖心
2つ目の原因として、恐怖心から震えている可能性が挙げられます。見知らぬ人が突然寄ってきたり、大きな音が聞こえたりした場合に恐怖を感じてしまう犬は多く、特にオスよりもメスによくみられます。
また、年齢を重ねるほど恐怖心が増す傾向にあります。恐怖を感じると呼吸や心拍数も上がるため、僧帽弁閉鎖不全症など心疾患を持つ犬は特に注意が必要です。
参照元:Elsevier|Applied Animal Behaviour Science
筋力の低下
3つ目の原因として、筋力の低下が考えられます。犬も年齢を重ねていくにつれ、筋肉が衰えていきます。
筋肉が落ちたために身体をしっかり支えきれなくなり、排便時や立ち上がる時に震えてしまうのです。
筋肉量を増やすためにはプールなどでのリハビリが効果的ですが、痛がる様子や嫌がる様子を見せた場合は、早めに獣医師に相談することをおすすめします。
緊張やストレス
4つ目の原因として、緊張やストレスが挙げられます。この場合、「震え=体調不良」ではないものの、人間同様、犬にとっても過度な緊張やストレスは決して体に良い影響を与えるものではありません。
ストレス状態が続くとは、理由なく吠え続ける、尻尾を噛みちぎるなどの異常な行動に発展する恐れがあります。放っておくことで、皮膚や消化器、泌尿器などあらゆる身体の疾患に繋がることもあるため注意しましょう。
犬の震えは病気の症状が現れている場合もある
犬の震えには、何らかの病気やケガが隠れている場合もあります。ここでは、犬がブルブルと震えている際に懸念される病気について解説します。
低血糖症
犬が震えている場合、何らかの理由で血糖値が下がり、低血糖症を起こしている可能性があります。低血糖症は、震え以外に発作などの神経症状もあらわれるのが特徴です。
神経症状があらわれている場合、命にも関わる可能性があるため注意が必要です。
特に、膵臓疾患を持っている場合や子犬において、低血糖が震えの原因と考えられる際は、危険な状態と考えられるため、速やかに獣医師にみてもらいましょう。
一方、成犬の場合は極度の運動や感染症、アジソン病や腎不全などさまざまな原因によることが多く、それぞれの疾患に合う治療が行われます。
参照元:NCBI|「Hypoglycemia in dogs: Causes, management, and diagnosis」
中毒症状
犬に与えてはいけない食べ物や除草剤、害獣駆除の薬剤などを犬が食べたことで、中毒症状を起こしている可能性もあります。
中毒症状では、震え以外に衰弱やよだれ、嘔吐や下痢、痙攣などの症状もあらわれるのが特徴です。
- チョコレート
- 玉ねぎ
- ぶどう
- キシリトール
- 除草剤
- 殺虫剤
- 殺鼠剤
- 人間用の医薬品(風邪薬など)
- タバコ
悪化すれば呼吸困難、意識障害などを引き起こす恐れもあるため、中毒症状が疑われる場合は速やかに獣医に相談してください。


脳障害
犬の震えには、脳障害の可能性も挙げられます。脳の障害が原因である場合、たとえば脳炎では痙攣や失神、旋回行動など、一方で脳腫瘍では、突然の元気消失や物によくぶつかるなどの行動が報告されています。
震え以外にも異変に気づきやすい症状が出る可能性はありますが、いずれにしても放っておけば命にかかわる危険もあるため、少しでも怪しい症状がみられる場合は、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
てんかん
脳の疾患としてよく知られているてんかんも、震えの原因となります。てんかんとは、神経細胞の過剰な興奮によって発作を繰り返す病気です。
脳炎や脳腫瘍などの原因によって2次的に引き起こされる「症候性てんかん」とそのような病変がない「突発性てんかん」があります。
てんかん発作は小さな発作から全身を痙攣させるほどの大きな発作までさまざまあり、その症状や発作の予兆として震えているように見えるのが特徴です。
重度になれば、身体が硬直したり、意識を消失してバタバタと転げ回ったりする状態なども生じます。
てんかん発作が5分以上継続した、24時間以内に2回以上発作があったなど様子がみられる場合には緊急性が高いため、一刻も早く動物病院に連絡してください。

内臓疾患
腎臓や肝臓機能に障害が起こった場合にも、震えることがあります。通常、腎臓は老廃物を体内から排出する役割を、肝臓はアンモニアなど毒素を解毒する働きをしています。
しかし、これらの臓器の機能が低下して腎不全や肝不全などの状態になると、震えや食欲の低下、痙攣や嘔吐などの症状を引き起こします。
特に、発熱や下痢・嘔吐、痙攣や呼吸が荒いなどの症状がみられる場合は内臓疾患の可能性があります。震えの原因を絞り込むためには血液検査などの検査が必要になるため、速やかに動物病院を受診してください。
椎間板ヘルニアや変形関節症など
椎間板ヘルニアや変形性関節症などの神経系、運動器の痛みから震えを起こすことがあります。
椎間板ヘルニアとは、何らかの原因で椎間板が逸脱し、背骨の中の神経である脊髄を圧迫する病気です。病状によっては激しい痛みを伴うために、犬に震える様子がみられることがあります。
変形性関節症とは、関節と周囲の組織が損傷し、関節が変形していく病気のことです。椎間板ヘルニアと同様に痛みが生じることもあり、震えの原因になることがあります。

犬に震えがみられたときすぐに受診した方が良い症状の特徴
犬に震えがみられた際に、以下のような症状がみられた場合は要注意です。犬の震えから重大な病気を見逃さないようにしましょう。
震える以外にも嘔吐や元気がないなどの症状がみられる
犬が震えている際、ほかに以下のような症状がみられる場合は特に注意が必要です。
- 嘔吐
- 元気消失
- 食欲低下
- 痙攣
これらの症状を確認した際は、速やかにかかりつけの動物病院に連絡してください。特に痙攣がみられた場合は、症状が進行している可能性があります。
また、震えが継続していたり、いつも同じタイミングで震えたりする場合も念のため早めに診察を受けることをおすすめします。
発熱をしていたりふらつきがみられたりする
さらに、以下のような症状がみられる場合も注意が必要です。
- 発熱
- ふらつき
ふらつきや発熱の症状がみられる場合、脳腫瘍や熱中症、感染症などに伴って震えている可能性があります。上記の症状がみられたら、様子見せず、できるだけ早くかかりつけの動物病院を受診してください。
犬が震えてしまっているときの対処法はケースごとに異なる
犬の震えにはさまざまな原因があるため、ケースごとに対応する必要があります。ここからは、犬が震えてしまっているときにできる対処法について解説します。
てんかんによる震え
自宅でてんかんによる震えが起こった場合の対処法は以下の通りです。
- 顔周辺に触らない
- 周囲のぶつかると危ないものをどける
- 震えや痙攣発作の時間や様子を記録する
- 止まった後の犬の様子を見る
てんかんによる震えは、その後発作へと進行します。一般的に痙攣発作は異常な興奮状態であるため、ふいに手を伸ばすと無意識に噛みつく恐れがあります。
てんかんによる震えが生じたら、ぶつかると危険なものを犬から遠ざけて、発作が治まるまで待ちましょう。何度も発作を起こす場合は緊急の処置が必要なため、速やかにかかりつけの動物病院へ向かってください。
痛みや中毒症状による震え
痛みや中毒症状による震えが起こった場合、基本的に自宅でできる応急処置はありません。その分、痛みなどから震える犬が快適に過ごせるよう配慮してあげることをおすすめします。
たとえば寝床の素材を柔らかいものに変えたり、クッションなどを利用したりと犬が快適な姿勢を保てるよう工夫してあげましょう。寝床が硬すぎる場合、腰や関節に負担がかかり、痛みを悪化させる可能性があります。
寒さや緊張による震え
寒さや緊張から犬が震えている場合の対処法は以下の通りです。
- 毛布を敷く
- 防寒着を着せる
- ペットヒーターを使う
- 音を遮断するよう工夫する
室内で犬を飼っている場合は、平均気温20度前後に室内を調整してあげましょう。特に夜など暖房を切る時間帯は室内が冷えやすいため、毛布やペットヒーターなどを使った対策がおすすめです。
また、緊張しやすい犬の場合は大きな音が聞こえにくいようにしたり、声をかけながら優しく抱きしめたり、使い慣れているタオルで包んであげるなどで犬の緊張を緩和させてあげることができるでしょう。
犬が震えに関連する傷病の治療費の目安
ケガや病気などで犬が震えている場合、その原因によってかかる治療費が異なります。
たとえば、外科的治療が必要な椎間板ヘルニアが原因だった場合は、以下のような費用が発生することが想定されます。
外科的治療が必要な椎間板ヘルニアの場合
- 初診料・・・約1,000円
- 検査費(MRIやCT検査など)・・・約94,000円
- 入院費・・・約12,000円(6日間)
- 麻酔、手術費・・・約60,000円
- 合計・・・約167,000円(薬代など除く)
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
特に椎間板ヘルニアの手術が必要な場合、MRIやCT検査をしたうえで入院・手術するため、費用が高額になりやすい傾向があります。
また、術後の経過によっては、10〜2週間程度の入院期間が必要になる可能性があり、その場合、入院費用がよりかかるでしょう。
一方、玉ねぎの中毒症状で犬が震えている場合、血液検査や皮下点滴、症状によっては輸血が行われます。
玉ねぎによる中毒症状を起こした場合
- 初診料・・・約1,000円
- 血液検査・・・約4,000円
- 点滴・・・約1,000円
- 輸血料・・・約15,000円
- 入院費・・・約6,000円(3日間)
- 合計・・・約27,000円(薬代など除く)
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
なお、上記の治療費等はあくまで一例であり、各項目の金額は動物病院によって異なります。
震えの原因となる傷病の治療費はペット保険で備えられることも
犬を動物病院に連れていく場合、治療費について不安に思う方は多いでしょう。
「犬も大切な家族の一員」というものの、ペットには公的保険制度がありません。したがって、動物病院でかかった治療費は100%自己負担となります。
こうした治療費の備えの1つとしておすすめなのが「ペット保険」です。将来的にかかるペットの治療費に備えて、愛犬に合ったペット保険の加入を早めに検討しておきましょう。
※保険会社や発症のケースによって補償対象外となる場合もあります。詳細は加入中または加入を検討しているペット保険会社へお問い合わせください
高額な治療費など急な出費にも備えることができる
ペット保険がおすすめの理由として、「高額な治療費など急な出費にも備えることができる」点が挙げられます。
アニコム損保が行った、ペットにかける年間支出調査(2021)によると、犬にかかる治療費は年間約5.7万円だったとされています。これはあくまで平均であり、長期入院や手術が必要になれば、数十万円以上の費用がかかることも少なくありません。
ペット保険に加入していれば、犬の震えの原因となる傷病の治療費も補償されるため、家計の負担を抑えられます。
※保険会社や発症のケースによって補償対象外となる場合もあります。詳細は加入中または加入を検討しているペット保険会社へお問い合わせください
参照元:アニコム損保|【2021最新版】ペットにかける年間支出調査
日常的な通院のハードルが下がって病気の早期発見にもつながる
日常的な通院のハードルが下がって病気の早期発見に繋がることも、ペット保険をおすすめしたい理由の1つです。
ペット保険に加入していることで金銭的負担が軽減されるため、愛犬のちょっとした仕草や様子に変化があれば、気後れせずに動物病院へ行きやすくなります。
特に犬の震えには重大な病気が潜んでいることもあるため、油断できません。小さな異変をできるだけ早期に発見できれば、愛犬にかかる負担の軽減にも繋がります。
以下記事では、ペット保険各社について保険料や補償内容など、具体的な比較をしています。あわせてご覧ください。

犬の震えを予防する方法
最後に、犬の震えを予防する方法について解説します。なるべく愛犬に辛い思いをさせないためには、日頃から環境づくりやバランスの取れた食生活を整えてあげることが大切です。
緊張や恐怖心などストレスによる震えの予防
緊張や恐怖心などストレスによる震えには、犬が苦手とするものや人、環境を避けてあげることで予防できます。一般的に、以下のような音が苦手という犬が多い傾向にあります。
- 雷
- 花火
- 工事現場の音
- 車やバイクのエンジン音
何に対して緊張や恐怖を感じるのかは犬それぞれであるため、普段の生活からしっかり愛犬の苦手なものについて観察しておきましょう。
参照元:Elsevier|Applied Animal Behaviour Science
筋力の衰えによる震えの予防
筋力の衰えによる震えの予防には、適度な運動や散歩が重要です。犬も人間も、年齢を重ねるにつれて徐々に筋肉が失われていく傾向にあります。
筋肉を鍛えるには散歩はもちろん、おすわりの姿勢から立つ、伏せるなどの動きを繰り返すことも足腰に適度な負荷をかけられるでしょう。
また、筋肉の維持に良質なタンパク質を多く摂ることも推奨されています。病気などで食事制限している場合は、サプリメントなどで補う方法もおすすめです。
中毒症状や低血糖症による震えの予防
まず中毒症状による震えの予防としては、「犬が食べて危険な物は近くに置かない」ことが挙げられます。
- キッチンに犬を入れない
- 薬やサプリメントは犬がいない部屋で飲む
- テーブルの上に食べ物を置きっぱなしにしない
- ゴミ箱は犬が見える所に置かない
上記に加えて、散歩中の拾い食いなどについても注意しておきましょう。
また、子犬の低血糖症は、1回あたりの食事量を減らして食事回数を増やすなど、食事の間隔を短くすることで予防できます。
成犬の場合は、他の病気と併発していることも多いため、定期的に検診を受けることが重要な予防といえるでしょう。
脳障害や内臓疾患による震えの予防
脳障害や内臓疾患による震えの予防には、適切な栄養バランスの摂取とともに日頃の定期的な通院や健康診断が大切です。
検診で、脳障害の有無や臓器の機能が低下していないかについて常に確認しておきましょう。
たとえば腎不全は犬のシニア期での発症が多い傾向にありますが、稀に先天的な理由などによって若くても発症するケースもあります。些細な異変も見逃さず通院していれば、病気の早期発見にも繋がるため、定期的な検診なども検討しましょう。
参照元:ペット栄養学会誌|ゴールデンレトリーバーの腎異形成の1例
獣医師からみた犬と震えの関係
ご覧になっていただいてわかるように、精神的なもので病的ではない原因のものから、万が一発症してれば命にかかわるような怖い病気である原因まで幅が広いのが震えだと言えるでしょう。
そのため、原因を特定するために様々な検査を要する可能性が高く、高度医療の病院を受診しないとわからない場合もあります。
原因特定に関する費用を懸念して、わからないまま断念する必要が生じてしまうかもしれません。
原因特定にかかる費用をカバーしたり、その後の治療の選択肢を豊富にしたりするための手段のひとつとしてペット保険の活用もおすすめです。
どんな子でも重大な病気になる可能性は否定できません。後悔のないよう万全に備えておきたいですね。
まとめ
犬の震えは、寒さや老化など生理的なものから低血糖症などの病気まで、その理由はさまざまです。
そのため、まずはその場の状況や食事内容、散歩など普段の生活が行えるかどうかを確認しましょう。一方、震え以外の症状もみられた時は、速やかに獣医に相談することをおすすめします。
病気が原因で震えている場合、高額な治療費がかかる可能性があります。愛犬の「もしも」の備えとして、ペット保険の加入についても検討してみましょう。
