犬の歯石は病気の原因になります。歯石が溜まると歯の病気だけでなく、心臓や肝臓など、重大な病気に罹るリスクがあるため対策が大切です。
本記事では、歯石の原因や取り方や注意点、予防策について、診療費例とあわせて紹介します。
犬の歯石が溜まってしまう原因

犬の歯石は、人間の歯よりも溜まりやすいといわれています。
その原因について、口内の歯石の作られ方やスピードについて解説します。
歯垢(プラーク)が放置されて固まって歯石になる
歯の表面に白くネバっとついているのが歯垢です。歯垢は細菌が繁殖したかたまりで、放置しておくと固まって歯石となります。
この歯石が歯の病気につながることがとても多いです。
歯垢は、食事後すぐの歯みがきが習慣化できていればほぼ取れますが、歯の表面だけでなく、歯間にも溜まりやすく奥まで入り込むため、どうしても取れにくい部分が出てしまいます。
したがって、歯みがきだけで完璧に取り除くことは難しく、残った歯垢が唾液の成分と結合し歯石になります。
参照元:犬の歯医者さん|歯周病の放置が重大な疾患につながる最も多い原因
歯石ができるとさらに歯垢が増えやすくなる
歯石の表面はザラザラとしていて、ネバっとした歯垢がくっつきやすい状態になっているため、1度できた歯石を手入れせず放置しておけば、どんどんと口内に歯石が増えてしまいます。
犬の口内で、特に歯石がつきやすいのは臼歯です。
唾液に含まれるミネラル成分には歯垢を歯石にしやすくする働きがありますが、臼歯には唾液腺があるために歯垢と混ざりやすく、歯石になりやすくなるといわれています。
奥に生えている臼歯は、もともと他の歯よりも歯みがきがしにくいため、注意して磨くようにしましょう。
参照元:みらいペットクリニック|歯石が付着しやすいワケ
犬の口の中では歯石になるまでのスピードが速い
唾液のpH値は、アルカリ性に傾いているほどミネラル成分によって歯垢を歯石にしやすくします。
犬は人間よりも歯石ができやすいといわれていますが、それは犬の唾液がアルカリ性であることによるものです。
人間の唾液のpH値 | 6.8〜7 |
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犬の唾液のpH値 | 8〜8.5 |
人間の場合、歯石が作られるまでには約25日かかりますが、犬の歯石は約3日で作られるといわれています。
犬の口の中に関する病気の9割以上は、歯石が原因だといわれているため、犬の歯石取りは重要な課題といえるでしょう。
参照元:犬の歯医者さん|ほぼすべての口腔内トラブルは歯石から
犬の歯石が原因となって発症し得る病気
犬の歯石は、口腔内のトラブルや病気を誘引するほかにも、重大な病気につながる可能性もあります。
歯石が原因で発症しやすくなるとされている病気は、主に以下の通りです。
- 歯肉炎や歯周炎
- 感染性心内膜炎や肝炎 など
参照元:犬の歯医者さん|犬の歯に多い病気
歯肉炎や歯周炎
歯石を原因とする口腔内の疾患には、以下が挙げられます。
- 歯肉炎
- 歯周炎
その他、乳歯遺残症にも注意が必要です。
歯肉炎や歯周炎
歯肉が炎症を起こしてしまう歯肉炎は、進行すると歯周炎の発症に繋がります。
歯周炎では、炎症によって深くなった歯周ポケットへ入り込んだ歯垢が歯石として付着し、歯肉から血や膿が出ることがあります。
さらに、歯を支えている歯槽骨が溶けて破壊されていき、歯が抜け落ちてしまう場合もあります。
口臭などの症状によって気づく場合もありますが、かなり進行してから気づくケースも多く、定期的な健診や歯石取りによる予防が必要になります。
乳歯遺残症
永久歯に生え替わるときに、本来抜けるはずの乳歯が抜けず、永久歯と並列して生えてしまうことがあり、これを乳歯遺残といいます。
歯石がきっかけとなって発症する病気ではなく、乳歯遺残症になると歯並びが悪くなるため、歯石ができやすい状態となります。
結果として、歯周病に罹るリスクが高まると考えられています。
乳歯遺残症は、特に小型犬に多く見られる発育障害だとされています。
感染性心内膜炎や肝炎などの重病に繋がるリスクも
歯周炎などで増えた細菌は口内だけに留まらず、根尖と呼ばれる歯の根の部分から体中へ巡り、重大な病気になる恐れもあります。
- 心内膜炎
- 肝炎
- 腎炎
- 骨髄炎 など
中には運動障害を招く疾患や、命にかかわる疾患があるため、口腔内の病気は予防に努めなくてはなりません。
参照元:犬の歯医者さん|犬の歯に多い病気
歯石の取り方や注意点
犬の歯石をしっかり取らないと、歯の病気や重大な病気に見舞われることがあります。
予防に向け、歯石の取り方や注意点、動物病院で歯石を取った方が良い理由などについて解説します。
石灰化している歯石は歯ブラシだけでは除去できない
犬の歯石は、付着したばかりであれば飼い主の爪などでかんたんに取ることも可能ですが、石灰化していると硬くなるため、歯みがきだけで取り除くのが難しくなります。
歯石は歯ブラシではなく、スケーラーという専用の器具で取れます。
ペットショップなどでも販売されているため、自宅で歯石取りをしている飼い主も少なくありません。
しかし、素人が取ろうとすると歯の表面を傷つけ、かえって歯垢がつきやすい状態を作ってしまったり、力を入れすぎて歯肉からの出血を招いたりなどのアクシデントが起こる可能性があり、おすすめできません。
動物病院で獣医師によって実施されるのが一般的
犬の歯石は、動物病院で獣医師に適切に取り除いてもらう方法がおすすめです。
犬が歯石取りへの恐怖心から急に身体を動かした結果、口内を傷つける恐れもあるため、専門的な処置の方が良いでしょう。
施術中に犬が動いて歯茎を傷つけてしまわないよう全身麻酔をする
犬の歯石取りをするときは、全身麻酔をする場合があります。
歯石取りは痛みを伴うだけでなく、処置に時間がかかる場合があります。
口内の状態によっては3時間以上かかるケースもあるため、安全な処置をするために麻酔が必要になるケースがあるのです。
参照元:【獣医師解説】スケーリング(歯石除去)について |よどえ動物病院
家庭で専用道具を使用しても取り切れない可能性が高い
スケーラーを使用し、家庭で歯石取りをした場合、目に見える部分を取り除くことはできても、歯周ポケット内や歯の裏側まできれいに取り切るのは困難です。
人の歯よりも形が複雑なだけでなく嫌がるために動こうとしてしまう犬が相手では、難易度は非常に高くなると考えられるため、定期検診もかねて動物病院への相談をおすすめします。
歯石除去(スケーリング)の目的は歯周病の予防
歯石除去(スケーリング)をするのは、単に歯垢を取って口臭予防をするということではなく、歯周病の予防や治療につながっています。
表面についた歯石を除去するだけでなく、隠れた歯石や歯垢を除去しきるのが重要になります。
そのため、専門の獣医師に処置してもらう方が良いといえます。
犬の歯科治療にはペット保険が適用できないケースがある
犬の歯科治療をする際、ペット保険が適用されない場合があります。
動物病院を受診した際の診療費は全額が自己負担となるため、負担を抑えることを目的にペット保険に加入している人も多いでしょう。
しかし、ペット保険の中には歯科治療を保険の適用外と定めているケースがあるため注意が必要です。
治療内容や経緯によっては保険が適用できることも
基本的にペット保険は、各社で補償の対象外となる処置について定めています。
特に病気の発症を予防することを目的とした処置や、傷病にあたらないものには保険が適用されないケースが多く、歯石取りは傷病には該当しないためにペット保険が適用されない場合があります。
ただし、発症している傷病の治療の手段として歯科治療をはじめとした口腔内の処置が行われた場合には、補償の対象となるケースもあります。
例えば歯周病を発症していて、治療のために必要となった歯石取りについては補償対象となるペット保険もあるでしょう。
ペット保険の加入を検討する際には、このような補償対象外とされている項目についてあらかじめ確認しておくことが重要です。

歯石取りや歯科治療にかかる診療費の目安
歯石取りや歯科治療によって、発生し得る診療費例は以下の通りです。
必要な処置は、口腔内の状態によって異なりますが、歯石除去の場合には先述した通り全身麻酔が必要となるため、体の状態を調べるための検査は実施され、費用は高額になりやすい傾向にあります。
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検査費用
- 血液検査(17項目)+ CRP + 凝固系検査:20,600円
- 10kgまで:抜歯あり8,800円~ 抜歯なし15,000円~
- 20kgまで:抜歯あり11,000円~ 抜歯なし20,000円~
- 30kgまで:抜歯あり16,000円~ 抜歯なし30,000円~
- 30kg以上:抜歯あり19,000円~ 抜歯なし36,000円~
歯石除去費用
参照元:あさ動物病院||歯科(歯周病・歯石除去)
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
犬の歯石を溜めないようにするための予防策
さまざまな病気に発展する可能性のある犬の歯石は、溜めないようにするための予防が大切です。
ここからは、適切な歯みがきの方法や与えるエサについて解説します。
毎日歯みがきを行う
犬の歯石を溜めないようにするためには、毎日の歯みがきが大切です。
毎食後に行うのが理想ですが、難しい場合には最低でも1日1回はできるように心がけましょう。
その際、最初は顔や口周りを触り、少しずつ口の中に入っていき歯や歯茎を触るようにします。その後、奥歯の方へ指を入れていきます。
慣れてきたら、歯ブラシを使って1本ずつ丁寧に磨いていきます。歯みがきは、歯と歯茎の間に毛先を入れ、中の汚れをかき出すようにします。
参照元:ライオン商事株式会社|愛犬の歯みがきのやり方・おすすめの方法
歯みがきシートは補助として利用した方が良い
歯石を取るためには基本的には歯みがきが望ましいです。
しかし、犬が嫌がるなどの様子がみられる場合には、歯みがきシートなどのグッズを使用するのも良いでしょう。
歯に残りにくいエサに変えるなどの検討も
缶詰などのウエットフードは水分が多いため歯にくっつきやすく、歯垢の元になりやすいです。
したがって、歯周病予防のためには、水分量が少ないドライフードがおすすめです。
硬いので咀嚼回数が増え、唾液の分泌が増えるので口の中が自然と洗われる効果もあり、歯にエサが残りにくいため有効だとされています。
監修担当の獣医師より
歯石・口臭は犬と暮らしていると必ず遭遇します。人は毎日歯みがきをすると思いますが、犬も歯みがきをしないと歯石は必ず増えます。
食後5分で口腔内細菌は15万個増えるといわれていますので、歯みがきをするタイミングも重要です。
しかし、歯みがきを喜んでさせてくれるワンちゃんは多くないですよね。
そのような時は、歯みがきトレーニングや指導をしている動物病院もありますので相談して下さい。
また、高齢になると唾液の分泌量が減ってより歯石が作られやすくなります。
その時は歯石除去が必要になりますが、保険会社によって適用になるケースとならないケースがありますので、事前に相談や確認が必要になります。
まとめ
犬の歯石はなかなか取り切れないため病気になりやすく、対策が重要です。歯の病気から派生して、生命を脅かす可能性もあり大変怖いため、早期発見、早期治療が大切です。
犬の歯石は家庭で取ろうとしても、歯茎を傷つけたり恐怖心を植え付けてしまいがちなので動物病院で獣医師に取ってもらうことをおすすめします。
また、歯石がつかないように1日1回の歯みがきや歯につきにくいエサを与えるなどの予防が大切です。
なお、高額な診療費用が抑えられるケースもあるため、ペット保険の加入を検討されてはいかがでしょう。


