本記事では、犬の皮膚病の主な原因と症状、予防方法や診療費に備えるためのペット保険について解説します。
犬がかかりやすい皮膚病の主な種類

犬の皮膚病は、ストレスや遺伝的要因など様々なことが引き金となり発症します。そのため、皮膚病の原因を正しく理解し対処する必要があります。
まず、犬が発症しやすい皮膚病の種類について解説します。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、原因となる物質が目・鼻・口・皮膚などから体の中に侵入したときに起こる炎症反応です。早い場合だと6ヶ月、一般的には1〜3歳で発症することが多いとされています。完治が難しい病気であるため、皮膚を健康に近い状態で維持していくことが治療の肝となります。
参照元:財団法人 動物臨床医学研究所|イヌ・ネコ家庭動物医学の医学大百科「皮膚の疾患」
参照元:スペクトラム ラボ ジャパン株式会社|犬のアトピー性皮膚炎の発症年齢と臨床症状
ノミアレルギー性皮膚炎
ノミの唾液に含まれるタンパク質に対するアレルギー症状で、ノミの唾液が犬の体内へ入り込むことによって発症します。ノミアレルギー性皮膚炎は薬による治療で完治しやすい病気ですが、ノミに寄生されてしまえば再発を繰り返してしまうため、完治後は定期的に予防薬でノミの寄生・生活環境内での繁殖を防ぐことが大切になります。
参照元:財団法人 動物臨床医学研究所|イヌ・ネコ家庭動物医学の医学大百科「寄生虫症」
膿皮症
膿皮症とは、主にブドウ球菌などの細菌感染によって引き起こされる皮膚病の1つです。細菌が、皮膚のどの部位(深さ)に感染しているかで2つに区別されます。
- 表在性膿皮症(毛包とその近くの表皮などの浅い部分)
- 深在性膿皮症(真皮内など皮膚の深い部分)
膿皮症は表在性膿皮症であれば抗生剤や抗菌剤の投与により完治・改善が可能ですが、深在性膿皮症は慢性化しやすく、再発もしやすいため、完治しにくい傾向にあります。
脂漏症
脂漏症とは、皮脂腺から出る皮脂の量の調節がうまく行われずに発症する皮膚病の1つです。
先天性による疾患で、生まれつき皮脂の分泌が多いために皮膚トラブルが起こりやすい状態を指します。
脂漏症は慢性化しやすく、完治には時間がかかる病気です。また完治したとしても、その後、定期的な通院などによる状態の維持が必要になります。
マラセチア性皮膚炎
マラセチア性皮膚炎は、マラセチアという真菌(カビ)によって引き起こされる皮膚炎です。マラセチアは、犬の皮膚に生息する微生物の1つです。免疫の低下やアトピー、食物・ノミなどのアレルギーなどによる皮膚の炎症、皮脂の過剰分泌などによってマラセチアが過剰繁殖する環境が整ってしまうことで皮膚炎を発症します。
マラセチア性皮膚炎は、治療によって完治が見込める病気ですが、基礎疾患等がある場合は治療に時間がかかる場合も多いといわれています。
ニキビダニ症
ニキビダニ症とは、免疫力低下をきっかけに、ニキビダニが皮膚の上で過剰繁殖することで起こる皮膚炎です。子犬に起こるニキビダニ症は比較的軽度で完治しやすいものの、成犬の場合は重篤化するケースも多く、完治に時間がかかる傾向があります。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症とは、主に被毛に生息している糸状菌という真菌(カビ)が、免疫力の低下や皮膚のバリア機能が弱まったタイミングで皮膚に感染して起こる皮膚病です。体力が不十分な子犬や老犬にみられやすい病気です。
皮膚糸状菌症は、早期や軽度であれば完治ができる病気ですが、皮膚の深部まで感染してしまうと、「肉芽腫」と呼ばれるしこりが形成されてしまうこともあります。
肉芽腫ができてしまうと、手術が必要になることもあり、完治までには時間もかかります。人にも感染する可能性のある病気のため、症状がみられたら速やかに受診することをおすすめします。
参照元:一般社団法人獣医師皮膚科学会|犬・猫の皮膚糸状菌症に対する治療指針 2P
角化型疥癬
角化型疥癬は犬疥癬虫(犬ヒゼンダニ)が多数寄生することによって起こる皮膚病です。角化型疥癬は、体力のない子犬や免疫抑制剤を使用している犬など、皮膚のバリア機能が弱っている犬で発症することが多いです。一般的には、1週間から10日の間隔で、ダニの駆除薬の投薬を繰り返して治療します。
犬疥癬虫は健康な人に感染することはありませんが、免疫力が下がっている場合には、一時的に人にも感染し、激しいかゆみを引き起こすことがあります。
外耳炎
外耳炎とは、外耳に炎症が起きる皮膚病のことです。
外耳
外耳:耳の入口から鼓膜までの部分
外耳炎の原因は、アレルギー性皮膚炎、耳ヒゼンダニや細菌や真菌などによる感染、砂などの異物の混入が上位を占めています。感染以外では、腫瘍やホルモン異常の症状として現れることもあります。
外耳炎は、年齢問わず発症する病気です。軽度の外耳炎であれば耳掃除や投薬で完治が望めますが、重度の場合は手術が必要になることもあります。
また完治したとしても耳の構造上再発しやすい犬種もいるので、その場合は完治後も定期的なケアが必要となります。
- アメリカン・コッカースパニエル
- ゴールデン・レトリーバー
- ラブラドール・レトリーバー
- ミニチュア・ダックスフンド
- パグ
- フレンチ・ブルドック
- チワワ
参照元:財団法人 動物臨床医学研究所|イヌ・ネコ家庭動物医学の医学大百科「耳に障害がある」
参照元:鳥取大学農学部獣医内科学研究室|犬の外耳炎とアレルギー性疾患
皮膚病を発症している犬の体にみられる症状

犬が皮膚病を発症すると、様々な皮膚症状や行動の変化が現れます。少しでも違和感を感じた場合には、すぐに動物病院を受診し早期治療を進めましょう。
ここからは、皮膚病の犬に現れる主な症状を5つ解説します。
水疱や膿疱などの発疹ができる
水疱や膿疱は皮膚の表層に空間ができ、その空間に液体が溜まったものです。溜まった液体が水性であれば水疱、膿性であれば膿疱と呼ばれます。
水疱や膿疱は、膿皮症や皮膚糸状菌症、アトピー性皮膚炎によく見られる症状です。
脱毛が起こりやすくなる
犬が罹患する皮膚病のほとんどで、症状として脱毛がみられます。
アレルギーや基礎疾患、細菌や真菌などの感染やノミや疥癬虫などの寄生虫感染、ストレスや栄養不良など、皮膚状態が悪化する要因はさまざまですが、犬が掻きむしってしまうために毛が抜けやすくなり起こります。
かさぶたやフケが多くみられるようになる
かさぶたやフケも多くの皮膚病でみられます。ホルモン異常や細菌や真菌の感染、食物やノミ・ダニ・ホコリなどによるアレルギーなど、様々な原因によって皮膚のサイクルが乱れ、かさぶたやフケが多く作られるようになってしまうために起こります。
また、栄養が不足していると角化亢進のためにフケが増え、皮膚がガサガサになる症状がみられます。
皮膚や肌がベタつく
皮脂は、肌のバリア機能の維持のためにはなくてはならない分泌物です。しかし、ホルモン異常、合わないスキンケアや遺伝的要因など様々な原因で皮脂の分泌が過剰になると、皮膚や肌がベタつくようになります。
主に、膿皮症、脂漏症、マラセチア性皮膚炎、外耳炎などでよく見られる症状です。
痒がる仕草が多くなる
体を掻くという仕草は普段目にする機会が多いためあまり重要視されませんが、痒みはそれだけで「なにか皮膚に異常がある」という体からのサインです。
かゆみの原因は様々で季節性のものやストレスによる一時的なものから、基礎疾患からくる慢性的なものまで多岐に渡ります。痒みは犬の皮膚病の初期症状として現れることも少なくないため、異変に気がついたら動物病院へ相談することをおすすめします。
犬の皮膚病にかかる診療費はペット保険の補償が受けられることも

犬の皮膚病は場合によっては長期治療が必要になるため、ペット保険の加入はいざというときの心強い味方となってくれるでしょう。ここではペット保険のメリットとその理由について解説します。
犬の皮膚病にかかる診療費の具体例
犬の皮膚病にかかる診療費の具体例は以下の通りです。
- 犬種:ヨークシャーテリア
- 診察:800円
- 半日入院:2,000円
- 検査:16,000円
- 全身麻酔:18,000円
- 手術:35,000円
- 病理検査:12,000円
- 点滴:1,500円
- 処置:1,700円
- 注射:1,500円
- お薬:1,900円
年齢:7歳
内容:皮膚腫瘍、入院1日、手術1回
合計:90,400円
参照元:アイペット損害保険株式会社|犬の保険金お支払い事例「皮膚腫瘍の場合」
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
皮膚病の治療は長期間にわたって通院しないといけないケースが多い
犬の皮膚病は、慢性・重篤化してしまうと完治しにくく、再発を繰り返す傾向にあります。そのため、長期にわたって通院をしなければいけない場合が多いです。
また、完治したとしても、再発を防ぐために長期の経過観察や健康状態の維持が必要になります。通院にかかる費用もかさみやすく、積み重なれば金銭的な負担も少ないとはいえず、ペット保険や貯蓄など、なんらかの方法で備えておく必要があります。
通院ハードルを下げ治療の選択肢を豊富にするメリットも
ペット保険の活用によって、診療費負担を抑えられれば少しの異変でも気兼ねなく動物病院を受診できるようになります。早期発見、早期治療が進められることで、愛犬の病気発症にいちはやく気づき、万全な治療を受けさせることができるのも、ペット保険に加入する大きなメリットだといえるでしょう。
犬を皮膚病にさせないための予防方法

犬を皮膚病にさせないためには、自宅でのケアも大切です。予防を意識することで皮膚の変化の早期発見にも繋がります。ここからは自宅で行える皮膚病の予防法を4つ解説します。
ブラッシングやシャンプーで正しくケアする
ブラッシングやシャンプーで不要な皮脂や毛を取り除き、清潔な皮膚の状態を保ちます。シャンプーは、皮膚に残ると状態の悪化を招いてしまう可能性もあるため、すすぎ残しが無いようにしっかりと洗い流すのがポイントです。
食事や栄養バランスの見直し
食事や栄養バランスを見直すことにより、アレルギー症状の予防や正常な代謝の促進に繋がります。皮膚の健康維持やアレルギー症状への対策に特化しているフードもさまざまな種類が市販されているため、愛犬の様子を見ながら切り替えてみるのも良いでしょう。
皮膚病の犬におすすめの手作りレシピを活用するのも良い
「これだ!」と思えるフードが見つからなかった場合には、犬用の手づくりレシピを活用してみましょう。ただし、比較的重度のアレルギー症状を食事で改善させたい場合には、手作りだけでは必要な栄養素を摂取させられない可能性もあるため、医師の指導のもとで療法食を与えるのも良いでしょう。
参照元:ペット栄養学会誌Vol.19 No.19 October2016|栄養学面側面から見た犬のアトピー性皮膚炎の病態と診断と治療
生活環境の見直し
生活環境を清潔に保つことも、犬の皮膚病予防に効果的です。花粉、ホコリなどのハウスダスト、ダニなど、アレルギーの原因は見えない箇所にも潜んでいます。完全に除去するのは不可能ですが、こまめな清掃や定期的な換気などを行うことで、発症のリスクは下げることができます。
寄生虫がつかないよう対策する
寄生虫は、駆除よりも予防が効果的です。そもそも寄生されなければ、寄生虫が原因の皮膚病を発症することはありません。そして現在では、様々な予防薬が開発・販売されています。定期的な予防薬の投与でかなりの精度で寄生虫の寄生を防ぐことができます。
監修者よりコメント
犬の皮膚病は、飼い主から見てもわかりやすく、そして気になる病気の一つです。
皮膚病で多い症状は痒み、脱毛、皮膚の赤み、ただれ、ベタつき、異臭といった、分かりやすいものです。
細菌や寄生虫などの感染が原因であれば、感染を取り除けば治癒しますが、アトピーやアレルギー、内分泌疾患などの基礎疾患が背景にあると、根治するのは難しくなってきます。
そして、皮膚の良好なコンディションを維持するために、定期的なシャンプーや保湿が必要となります。
また、日本の夏のような高温多湿な環境は、皮膚病を悪化させてしまう原因の1つでもあります。
皮膚病の症状が現れはじめたら、早めに動物病院を受診しましょう。
皮膚病の治療は、一時的なもので治る場合と、長期的な治療と良好な状態を維持するためのスキンケアが必要になる場合とに分かれます。
診療費が高額になった場合でも安心して対応できるように、保険の加入をお勧めします。
まとめ
犬の皮膚病は様々な要因によって発症します。軽度の皮膚病であれば完治までの時間も短く、診療費も高額になることも少なく、完治後の健康維持も比較的容易なことが多いです。
一方で重度の皮膚病になってしまうと、完治までに時間もかかり、通院費をはじめ治療にかかる費用も大きくなりやすいです。また、完治後は良好な状態を維持し、再発を防ぐためにも薬の費用等もかかるでしょう。
費用の負担を抑えられる可能性のあるペット保険には、同時に、通院のハードルを下げ治療の選択肢を増やす効果も期待できます。愛犬のもしものとき、最良の選択ができるようペット保険への加入を検討しておくのはいかがでしょうか。
