感染状態によっては命にかかわりかねないため、早期受診をおすすめします。
記事では、フィラリアの症状や原因、主な治療法や診療費について解説します。
犬のフィラリア症には注意が必要
犬のフィラリア症は感染症の1つで、蚊に刺されて感染します。
しっかりと予防していれば感染を抑えることができますが、もし感染した場合は命にかかわることもあります。
まずは、フィラリア症の特徴について解説します。
心臓や肺動脈に寄生し機能障害を起こす感染症
フィラリア(犬糸状虫)とは、心臓や肺動脈に寄生する虫です。
犬が蚊に刺されることで、蚊の体内にいたフィラリアの幼虫が犬の体内に侵入し、心臓や肺の機能障害などを起こします。
幼虫は犬の皮下や筋肉内で成長し、約100日〜120日後には心臓や肺動脈に到達します。そして、約6〜9ヶ月かけて成熟して多数のフィラリアの赤ちゃん(ミクロフィラリア)を産みます。
こうして産まれたミクロフィラリアを、蚊が吸血時に体内に吸い込み、その蚊が別の犬を吸血することで伝搬し別の犬に感染が広がっていきます。
一般的に、フィラリアの成虫は5〜7年、幼虫は1〜2年が寿命といわれています。
参照元:一般社団法人・日本臨床獣医学フォーラム| 犬糸状虫症(フィラリア症)
参照元:American Heartworm Society| 犬における犬糸状虫感染症の予防・診断・治療最新ガイドラインについて
フィラリア症の犬にみられる症状
フィラリア症では、以下のような症状がみられます。
- 体重の減少(初期症状)
- 咳
- 食欲や元気の消失
- 疲れやすい
さらに症状が進行した場合、腹水や貧血、血尿や呼吸困難などを起こすことがあり、命にかかわる危険性もあります。
なお、フィラリア症の症状は感染し数年経ってから症状が出現する傾向があるため、気づいた時にはすでに重症化していることも少なくありません。
少しでも異変を感じる場合は、速やかに獣医師に相談するようにしましょう。
参照元:一般社団法人・日本臨床獣医学フォーラム| 犬糸状虫症(フィラリア症)
参照元:野坂獣医科| フィラリア症とは
犬がフィラリア症に感染してしまう原因
犬のフィラリア症は、いつ感染してもおかしくない身近な病気であり、感染には十分な注意が必要です。
犬がフィラリア症に感染してしまう具体的な原因について解説します。
蚊によって媒介され感染する
犬のフィラリア症の原因として挙げられるのが、蚊の存在です。
フィラリアは蚊によって媒介される寄生虫であるため、蚊がいなければ犬や人間への感染が成立しません。
そのため、蚊が活発的に活動するシーズンは特に注意しましょう。
蚊は、人やペットの呼吸や体温などを感知するため、夜に刺されるケースも少なくありません。
また、蚊は池や水田、生い茂った雑草などに多く生息しています。
池や水田が近くにある、庭に雨水の溜まったバケツを置いている家庭などは、蚊との遭遇リスクが高いため注意しましょう。
まれに人間も感染するため注意が必要
フィラリア症は、稀に人間にも感染することがあります。
人間の場合、体内に侵入してきたフィラリアの幼虫は成長することなく死滅するため、基本的に無症状の場合が多く、重症化することはほとんどないでしょう。
また、人間以外に猫への感染も報告されています。猫のフィラリア症は、他の病気と症状が似ていることや検査の難しさなどから発見が見逃されがちです。
しかし、場合によっては数匹のフィラリアの寄生によって急性症状を引き起こすこともあるため注意しましょう。
猫のフィラリア症も、犬と同様、定期的な投薬で感染を防ぐことができます。
参照元:環境省| 人と動物の共通感染症に関するガイドライン
参照元:Claudio Genchi・Luigi Venco・Nicola Ferrari・Michele Mortarino・Marco Genchi| Feline heartworm (Dirofilaria immitis) infection: a statistical elaboration of the duration of the infection and life expectancy in asymptomatic cats.Vet Parasitol 2008
フィラリア症に注意するべき犬の特徴や生活環境
ここからは、フィラリア症に注意するべき犬の特徴や生活環境について解説します。
フィラリア症は、放置するほど症状が悪化する感染症であるため、疑わしい場合は速やかに獣医師に相談して、なるべく早く治療を受けましょう。
犬種や年齢を問わずに感染する可能性がある
フィラリア症は、犬種や年齢、性別を問わず感染する可能性があります。加えて、普段室内で過ごしている犬も感染リスクがあるため注意しましょう。
感染源である蚊は日本全国に生息しているため、家の中にフィラリアの幼虫を体内に持つ蚊が侵入することも珍しくないからです。
近所を散歩中に刺された、などのケースもあるため、「うちの愛犬は感染しない」と安易に考えず、なるべく予防薬を投与することをおすすめします。
参照元:American Heartworm Society| 犬における犬糸状虫感染症の予防・診断・治療最新ガイドラインについて
屋外飼育や妊娠中の犬は注意が必要
全犬種に注意が必要なフィラリア症ですが、屋外のドッグハウスやケージで生活する犬はより注意する必要があるでしょう。
特に川の近くなど、蚊の多い環境で生活している場合は感染リスクも高まります。蚊から愛犬を守るために、動物病院で処方される予防薬を定期的に服用してください。
なお、予防薬の多くは妊娠中・授乳中の犬の服薬も可能とされていますが、妊娠中は体調が変化しやすいデリケートな時期です。
予防薬に含まれている成分が母体に悪い影響を与える場合もあるため、投薬前に必ずかかりつけの獣医師に相談しましょう。
参照元:フジタ製薬株式会社| 製品に関するよくある質問(イベルメックPI)
参照元:日本全薬工業株式会社| ご利用になる前に(ネクスガード)
犬のフィラリア症は定期的な投薬による予防が一般的
犬のフィラリア症は、定期的な投薬によって感染を防ぐことができます。
1度寄生したフィラリアの駆除はリスクの高い治療になるため、確実に予防することが大切です。
1ヶ月間隔で継続した投薬によって予防する
予防薬は、体内に入って1ヶ月後の幼虫を駆除する薬であるため、蚊の活動期間より1ヶ月遅れて服用するのが一般的です。
例えば、東京では5月〜12月にかけて予防することが推奨されています。地域によって推奨される投薬期間が異なるため、かかりつけの獣医師に相談して服用するようにしましょう。
- チュアブルタイプ
- 錠剤タイプ
- スポットタイプ
予防薬の中にはノミ・マダニ、消化管寄生虫なども同時に予防できるものもあります。
また、薬の種類によっては副作用が出る場合があるため、投与後に異変がみられる場合は速やかに動物病院を受診してください。
参照元:緑書房|臨床獣医師のための犬と猫の感染症診療
参照元:目黒モナーク動物病院| フィラリア予防薬はいつまで飲ませるの?
予防薬の使用には注意が必要
愛犬の健康を守ってくれる予防薬ですが、投与する際には以下のような注意点があります。
- 投与前には必ずフィラリア検査をする
- 投薬期間をきちんと守る
まず、フィラリア予防を開始する場合は、必ず動物病院でフィラリア検査を受けてから愛犬に予防薬を投与してください。
万が一、体内に幼虫が寄生している状態で予防薬を投与した場合、血中の幼虫が一気に死滅して血管に詰まることで、犬がショック症状などを起こす恐れがあるからです。
そのため、必ず検査で安全に予防薬を服用できるか確認しましょう。
投薬期間は蚊がいなくなった1ヶ月後まで
フィラリア予防の期間は、「蚊を見なくなった時まで」ではなく、「蚊がいなくなった1ヶ月後まで」が一般的です。
「蚊がいないから」と処方された分の薬を残して予防を終えると、きちんと体内の駆虫ができずにそのまま感染する恐れがあるため注意しましょう。
一方、近年では、気候の変動などによる蚊の活動の長期化や米国犬糸状虫学会(AHS)の推奨から、通年予防を提案する動物病院もあります。
通年予防ができる注射タイプは、1回の接種で1年間予防が可能であるため、投薬を忘れがちな人や薬を飲まない愛犬におすすめです。
かかりつけの獣医師に相談した上で、愛犬にとって負担の少ない予防方法を選んであげましょう。
参照元:American Heartworm Society| 犬における犬糸状虫感染症の予防・診断・治療最新ガイドラインについて
参照元:よどえ動物病院| 【獣医師解説】フィラリア予防の期間は?
犬のフィラリア症の主な治療方法
犬のフィラリア症の治療方法は、成虫や幼虫の寄生数や症状、臓器への影響度などによって選択が異なります。
ここでは、犬のフィラリア症の主な治療方法について解説します。
外科手術で心臓内のフィラリア成虫を駆除する
フィラリア症の主な治療方法としてまず挙げられるのが、外科手術です。
頚静脈から鉗子を挿入して、肺動脈内や心臓内に寄生しているフィラリアを直接取り出します。
手術で虫体をつまみ出すため、手術後は心雑音の消失などが見込まれるものの、麻酔や術中突然死のリスクを伴います。
また、高度な技術や設備を用いることから、処置可能な動物病院が限られることも特徴です。
参照元:American Heartworm Society| 犬における犬糸状虫感染症の予防・診断・治療最新ガイドラインについて
成虫駆除薬を投与する
成虫駆除薬によってフィラリアを死滅させるという方法も、フィラリア症に対する治療法の1つです。
しかし、薬剤によって死滅した虫体が、肺の血管に詰まって急性症状を起こす可能性があるため、投薬には慎重な判断が求められます。
なお、現在フィラリアに対して駆虫効果のある「メラルソミン」は日本での販売が中止されており、国内における成虫駆除薬の入手は困難といわれています。
参照元:American Heartworm Society| 犬における犬糸状虫感染症の予防・診断・治療最新ガイドラインについて
予防薬を長期間投与して駆除していく
予防薬の長期投与治療は、フィラリアの寄生数が少ない場合に採用されることが多い治療法です。
長期にわたって予防薬の投与を行うことで再感染を防ぎつつ、フィラリアの寿命が自然に尽きるのを期待します。
上記2つの治療法に比べてリスクが少ないものの、フィラリアが心血管系に寄生している限り血管や心臓などに負担がかかり続けるため、同時に心臓などのケアが必要となります。
参照元:アイビーペットクリニック| 犬フィラリア
犬のフィラリア症の治療にかかる費用の事例
治療や予防にかかる費用は、症状や薬の種類によってさまざまです。
最後に、犬のフィラリア症にかかる費用について解説します。
フィラリア症の治療にかかる費用
フィラリア症を患った際にかかる費用は、検査や症状の程度によって異なります。
例えば、フィラリアの寄生が確認された場合は、抗原検査の他に超音波検査などを行って肺や心臓などの状態を確認することが多いため、一般的に以下のような費用がかかると想定されます。
フィラリア症疑いで受診した場合(陽性と診断されたケース)
- 初診料……約1,000円
- フィラリア検査(直接法・集中法)……約1,000円
- フィラリア検査(抗原検査)……約2,000円
- レントゲン検査……約3,000円
- 超音波検査……約3,000円
- 予防薬など
合計金額:約10,000円(予防薬などの薬代を除く)
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
手術が必要となる場合は、入院費や手術費などを含めてさらに診療費がかかるでしょう。
また、肝臓障害や腎臓障害などを併発している場合、フィラリア症の治療と並行して治療を進めるため、診療費が高額になる傾向があります。
フィラリア症の予防にかかる費用
予防薬はいくつかの種類があり、実際にフィラリア症の予防薬を購入する場合、以下のような費用の発生が想定されます。
フィラリア症の予防にかかる費用(5kgの成犬の場合)
- 注射タイプ(1回)……6,350円
- 錠剤タイプ(7回分)……5,400円
- チュアブルタイプ(7回分)……4,500円
- スポットタイプ(7回分)……12,600円
参照元:エルザ動物病院グループ| フィラリア予防について
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
例えば、注射タイプは1回の注射で12ヶ月効果があるため、投与忘れの心配がないというメリットがあります。
ただし、体重から注射の投与量を算出するため、体重変化の激しい成長期の子犬には使用できません。
一方、ジャーキーなどのおやつが好きな犬の場合はチュアブルタイプ、おやつをあまり食べない犬の場合は錠剤タイプが飲ませやすいでしょう。
なお、食物アレルギーがある犬の場合は、チュアブルタイプの予防薬を使用する前に必ず獣医師に確認してください。
また、スポットタイプは、駆虫成分が入った液剤を首の後ろに垂らして浸透させるもので、口からの投与が難しい犬や食物アレルギーがある犬におすすめです。
予防薬の投与は、「涼しくなってきたから」等と自己判断で中止せず、かかりつけの獣医師に指示された期間中は継続して行いましょう。
予防できる病気の診療費はペット保険の適用を受けられない
ほとんどのペット保険では、予防できる病気の診療費は補償対象外になっています。
そのため、定期的な投薬で予防できるフィラリア症も、原則補償されません。また、保険会社によってはフィラリア陽性だと加入自体ができないこともあります。
しかし、犬の寿命が伸びている現在、年を重ねるほど臓器の機能低下や関節疾患など病気になるリスクが高まります。こうした万が一の高額診療費の備えとして頼れるのがペット保険という存在です。
加入を検討する際は、愛犬が健康のうちに各保険商品の内容をよく比較して、無理のない範囲で備えておくことをおすすめします。
ワクチンなど予防の処置費用にもペット保険は活用できないため注意
多くのペット保険では、診療費だけでなく、ワクチンなど予防の処置費用にも活用できません。
しかし、経済的負担を気にして適切な予防薬を投与しないでいると、いざ病気になった場合に、予防の処置費用よりも診療費が嵩んでしまう可能性があります。
特にフィラリア症は犬種や年齢などに関係なく感染する感染症であり、場合によっては命にかかわりかねません。
愛犬の健康を守るためにも、事前に予防できる病気はきちんと感染予防対策をしてあげることが大切です。
監修者からのコメント
フィラリア症は、定期的にきちんと予防薬を投与していれば必ず予防できる病気です。
一度フィラリアに感染して病気が進行してしまうと治療が大変むずかしいので、寄生させないことが一番です。
予防をしていない、忘れてしまったと気づいたら、動物病院で検査を受けましょう。
予防に関しては、地域にあった適切な予防計画がありますので、かかりつけの獣医師に相談してください。
また、飼っているわんちゃんを予防することで、その地域でフィラリアを持った蚊を少なくすることが期待できますので、外に出ないわんちゃんやマンションに住んでいるなど、蚊と接する機会が少ない環境でもぜひ予防をするようにして下さい。
まとめ
犬のフィラリア症はどの犬種でも感染する可能性があり、放置すると症状が重篤化して命にかかわりかねません。
咳や食欲低下、血尿などの症状がみられる場合は、速やかに獣医師に相談することをおすすめします。
犬のフィラリア症は、定期的な投薬で未然に防げる感染症です。飲み薬以外にスポットタイプや注射タイプの予防薬もあるため、愛犬にあわせて適切な感染予防をしてあげましょう。

