犬の下痢は、ふとした生活の変化が原因で起こりやすい症状の1つです。症状によっては緊急の対処が求められる場合もあるため、注意が必要です。
本記事では下痢の主な原因や自宅でできる対処法について、治療費やペット保険とあわせて解説します。
犬が下痢になってしまう原因
下痢は、腸管内における水分の分泌と吸収のバランスが崩れた状態から起こる症状であり、続くと犬の体に大きな負担をかけます。
まずは、犬が下痢になってしまう主な原因について解説します。
食事の量が多い
犬が下痢を起こす原因の1つとしてまず挙げられるのが、フードの食べ過ぎです。
人間同様、犬も食べすぎると消化が追いつかず、下痢を引き起こすことがあります。この場合、与える食事量を見直してみましょう。
一方で、食事量をちゃんと計算している場合は、フードが古くなっている可能性も考えられます。フード内でカビが発生していたり、フードの油が酸化して刺激になったりすることで下痢を引き起こしかねません。
開封したフードは、なるべく早めに使い切るよう心がけましょう。
食べたものにアレルギーをもっている
2つ目の原因として、食物アレルギーの可能性が挙げられます。
特定の食材を食べるたびに下痢を起こす場合、食べたものに犬がアレルギーをもっている可能性が高いでしょう。
動物病院でアレルゲンを特定し、それを含まない食事を与えることで改善が期待できます。
過度なストレス
3つ目の原因として、環境の変化による過度なストレスの可能性が挙げられます。
環境の変化とは、以下のような状況です。
- 長時間の留守番
- 引っ越しや旅行
- 工事の大きな音
- 雷の音
- ペットホテルでの宿泊
- 季節の変わり目の寒暖差
ストレスが原因で軽く下痢をしている場合、1〜3日ほどすれば症状は自然に改善するでしょう。ただし、下痢が何日も続くようであれば重大な病気が潜んでいる可能性があるため、獣医師に相談することをおすすめします。
異物誤飲
4つ目の原因として、犬が食べられないものを食べてしまった可能性も考えられます。
異物誤飲を原因に下痢をする可能性は低いですが、腸閉塞を起こした場合などに下痢がみられることがあります。
また、たまねぎなど犬が食べてはいけないものを食べてしまった際にも、下痢の症状が起きる可能性があります。
下痢の他に、胃液を吐く、痛みで震えているなど様子が明らかにおかしい場合は、速やかに動物病院へ連れて行ってください。

ウイルス感染・細菌・寄生虫
5つ目の原因として、ウイルス感染や細菌、寄生虫などが挙げられます。
ウイルスや細菌、寄生虫が体内に入ると消化管に炎症を起こします。特に子犬や免疫力が弱っているシニア犬は重症化する恐れがあるため、注意してください。
回虫や条虫などの寄生虫の場合は便検査で検出されることが多いため、受診の際は忘れずに便を持参するようにしましょう。
膵炎など内臓の病気が原因であることも
その他にも、下痢は肝臓や膵臓に関連した病気や、腫瘍など、さまざまな病気が原因となり引き起こされている場合もあります。
「ただお腹をくだしているだけだ」と安易に考えることはせず、気になることがあれば早めに動物病院を受診しましょう。
犬が下痢になったときすぐに受診した方が良い症状の特徴
犬の下痢の原因はさまざまですが、以下のような症状が見られた場合は重度の病気のサインである可能性があります。
急に悪化してしまうケースもあるため、症状が当てはまる場合は速やかにかかりつけの動物病院を受診してください。
排便の頻度が高く数日間続いている
排便の頻度が高く、数日間続いている場合は速やかに獣医師に相談しましょう。
特に子犬やシニア犬は体力がないため、排便が多くなることで脱水症状や栄養失調、体力の消耗を引き起こしかねません。
このとき、下痢の頻度や量、色などの状態を観察しておきましょう。できるだけ正確に獣医師に伝えることで、診断や治療の手がかりになります。
下痢以外にも症状がみられる
下痢の他にも、以下のような症状がみられる場合は注意が必要です。
嘔吐
嘔吐は、下痢と併発することが多い症状です。下痢と同じく、体から有害なものを排出する行為なので、脱水症状になる可能性があります。
水を飲んでも嘔吐を繰り返したり、その後食欲が低下したりなど明らかに異常な状態がみられた場合は、病気が潜んでいる可能性があるため、早めの受診をおすすめします。
血便
血便が出ている場合も、注意が必要です。下痢に鮮血が混ざっている場合、肛門付近や大腸などで出血が起きている可能性があります。一方、黒っぽい色である場合は食道や小腸などに問題がないか調べる必要があるでしょう。
消化器官の炎症がひどい場合、大量の出血を伴うことがあり、処置が遅れると危険であるため、速やかに動物病院で検査してください。
食欲や元気がない
食欲や元気がない場合、深刻な感染症にかかっている可能性があります。具体的な例としては、パルボウイルス感染症や犬コロナウイルス感染症などが挙げられます。
ウイルスは他の犬にも感染する可能性もあるので、速やかに動物病院を受診して適切な治療を受けましょう。
特に犬パルボウイルスは激しい嘔吐や食欲の低下などの症状がみられ、下痢や嘔吐が続くと死亡することもあるため、注意してください。
参照元:日本臨床獣医学フォーラム|犬パルボウイルス感染症
体重が減少している
また、下痢の他に、体重の減少がみられる場合も要注意です。食べているのに体重が減少する場合、消化器での吸収がうまくいっていない可能性があります。
体重の減少とともに犬の様子がぐったりしているときには、すでに命に関わる状態に進んでいることもあるため、速やかにかかりつけの動物病院で検査してください。
犬が下痢になってしまったときの治療方法と治療費の目安
犬が下痢になってしまった場合、症状によって治療方法はさまざまです。ここからは、具体的な治療方法とともに治療費について解説します。
症状に合わせた薬を処方してもらう
先述した通り、下痢といっても多くの原因が考えられるため、検査をしなければ治療ができません。
そのため、問診にて下痢の頻度や現在の食事内容、下痢以外の症状などを聞いたうえで便検査を行います。
- 腸内の細菌の様子
- 消化不良の有無
- 細胞成分
- 寄生虫卵の有無
状態がそれほど重篤ではないと判断された場合は、下痢止めや整腸剤、抗生剤などの内服薬で対症療法を行います。脱水が疑われる場合は、皮下点滴などをする場合もあります。
別の病気による下痢の場合には治療が優先されることも
検査によって別の病気が発覚した場合、そちらの治療が優先されることもあります。
重大な病気の疑いがあれば、上記の検査に加えて血液検査やレントゲン検査、超音波検査や内視鏡検査などを用いて診断が進みます。
具体的な内容としては、検査で腸疾患が見つかった場合は食事療法や免疫抑制剤などを使用し、急性出血性胃腸炎が疑われる場合は入院になることもあります。
参照元:獣医医療開発株式会社|これだけは知っておきたい免疫抑制剤の基礎知識(2013年8月号)
犬の下痢における治療費の目安
犬が下痢をした場合、その原因によって治療費が異なりますが、主に便検査や点滴などが行われます。
軽度の下痢の場合
- 初診料・・・約1,000円
- 便検査・・・約500円
- 血液検査・・・約4,000円
- 点滴・・・約1,000円
- 合計・・・約6,500円(処方薬代除く)
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
病院や症状によっては、検査センターやキットを使用してウイルスや寄生虫の検査をすることがあり、その場合の便の検査は10,000円近くかかるケースもあります。
上記のように、軽度の下痢の場合は検査料を含めて1日の通院で数千円です。しかし、状態によってはレントゲン検査、超音波検査などを行う場合もあり、費用が高額になりやすいようです。
アニコム損保の家庭どうぶつ白書によると、犬の下痢・嘔吐・血便での1頭あたりの年間平均診療費は36,198円となっています。なお、上記治療費はあくまで一例であり、動物病院によって項目ごとの金額は異なります。
参照元:アニコム損保|家庭どうぶつ白書2019
犬の下痢の治療にかかる費用はペット保険で備えられる
過去に犬を動物病院へ連れて行ったとき、人間よりも高額な治療費がかかり、驚いた経験がある方も多いでしょう。
ペットの治療費は全額自己負担となるため、ペットの下痢にかかる治療費が想像以上に高額になることも少なくありません。こうした飼い主のお金の悩みを解決してくれるのが、「ペット保険」です。
※保険会社や発症のケースによって補償対象外となる場合もあります。詳細は加入中または加入を検討しているペット保険会社へお問い合わせください
下痢は犬の保険金の請求件数の中でも多い
アイペット損保が行った、保険金請求が多い傷病のランキング*によると、下痢は第4位で、犬の保険金請求件数の中でも多い症状の1つです。
特に子犬の下痢による受診が非常に多く、年齢別の保険金請求件数では第1位になっています。
下痢は、年齢問わず犬がかかりやすい症状です。免疫力が低い子犬やシニア犬などは症状が悪化しやすい傾向にあるため、治療費を貯蓄でまかなうことに不安を覚える人はペット保険に入っておくと安心でしょう。
参照元*:アイペット損保|ペットの保険金請求が多い傷病のランキング2021
高額な治療費など急な出費にも備えることができる
下痢が重症化した場合、血液検査やレントゲン検査に加えて入院しなければならないケースも少なくありません。
入院となれば数日分の入院費なども加算されるため、かかる治療費は数万円にも及ぶこともあります。ペット保険の加入は、こうした高額な治療費など急な出費にも備えることができます。
ペット保険の必要性については、高額な治療費にいつでも対応できるか、もしくはその負担に耐えられるのかという点から考えてみるのも良いでしょう。
下記記事では、貯蓄で備えるよりもペット保険に加入した方が良いケースを獣医が解説しています。ペット保険を検討する際は参考にしてください。
※保険会社や発症のケースによって補償対象外となる場合もあります。詳細は加入中または加入を検討しているペット保険会社へお問い合わせください

日常的な通院のハードルが下がって病気の早期発見にもつながる
ペット保険は、受診ハードルを下げるための備えとしてもおすすめです。
費用を負担を抑えて受診できるため、愛犬の小さな異変を感じた場合も動物病院に向かおうという気になれます。
これは病気の早期発見にも繋がり、もしも大きな病気が見つかった場合でも、保険に入っていることで治療費への金銭的負担が軽くなります。ペットの医療費が抑えられれば、愛犬にとって最善の治療を選択してあげられるでしょう。
犬が下痢になっているときに自宅でできる対処法
それでは、下痢をしながらも食欲や元気がある場合、飼い主はどのようなことができるのでしょうか。ここからは、犬が下痢になっているときに自宅でできる対処法について紹介します。
こまめに水分補給をさせる
犬の下痢への対処法として、こまめに水分補給をさせるようにしましょう。
下痢になると、体内の水分が抜けるため、脱水症状になりやすくなります。そのため、下痢のときはなるべく水分を摂らせ、体内の水分量を保てるようにしてあげることが大切です。
ただし、冷たすぎる水や一度に大量の水を与えるのは胃腸への負担になるため、控えましょう。
水を多く与えてしまうと、嘔吐を起こしてしまうことがあるため、少量に留めることが大切です。
水以外にも、鶏肉の茹で汁など味のついたものも犬の食いつきが良くおすすめです。
胃腸を刺激しないよう少量の食事を与える
下痢の際は、絶食が良いとされることがありますが、絶食をすると腸に栄養が行き渡らなくなり、回復が遅くなる可能性があるため、最近では絶食をするのではなく、食事制限をしながら治療をすることが勧められています。
普段の1/3〜半分程度のふやかしたフードを与えるなどして胃腸への刺激を軽減して、食事を与える工夫をしましょう。
具体的な食事として以下が挙げられます。
- ドライフードを水でふやかす
- 胃腸サポート用のウェットフードに変える
- 茹でた鶏肉のササミを与える
こうした食事に切り替えることで、犬が消化吸収しやすくなります。
ただし、飼い主がどの程度の制限をするべきか、どういった物を与えるべきかわからない場合は、獣医など専門家へ指示を仰ぐようにすることも大切です。
軽度の下痢にはさつまいもなど整腸作用のある食材もおすすめ
消化しやすい食事として、さつまいもなど整腸作用のある食材を与えることもおすすめです。
さつまいもに含まれている食物繊維は、腸の動きを活発にする働きがあります。与えるときは、茹でたりレンジで蒸したりと加熱して、少量ずつ与えるようにしましょう。
また、さつまいもの皮の近くには栄養素が豊富といわれていますが、消化しにくい部分でもあります。そのため、下痢を起こしている犬の場合は、皮を剥いて実だけを与えることをおすすめします。
犬の下痢の予防方法
下痢は多くの原因から起こりうる症状なので、予防は難しいとされています。
しかし、ウイルス感染や食事などが原因で下痢を引き起こしている可能性が高い場合、以下の方法を心がけることで改善される場合があります。
下痢の症状が起こる感染症はワクチンで予防する
下痢の症状が起こる感染症に対しては、ワクチンを定期的に受けることで予防できます。
特にパルボウイルスや犬ジステンパーウイルスは犬の伝染力が強く、死亡率も高いウイルスです。これらのウイルスはワクチンで予防できるため、適切な時期にしっかり混合ワクチンを受けて、免疫をつけておきましょう。
体質に合った食事を与える
フードが原因で起こる下痢に対しては、体質にあった食事に変えることで予防できます。
人間と同様、犬も体質や年齢に適した食事管理が必要です。フードを変えるときは、少しずつ混ぜながら味に慣らしていくと良いでしょう。
また、長年食べ続けていたフードでも突然アレルギーを発症することもあるため、日頃から愛犬の様子をチェックしておきましょう。
異物の誤飲や拾い食いなどに注意する
異物の誤飲や拾い食いなどを注意することも、予防の1つです。
異物誤飲をした場合、下痢に加えて窒息や腸閉塞を引き起こす危険もあります。こうしたリスクを回避するため、犬が飲み込んでしまいそうなものは、犬の行動範囲に置かないようにしましょう。
また、拾い食いの癖がある犬の場合、散歩中も進行方向にタバコの吸い殻や石、焼鳥の串など危険な物がないか確認することが大切です。
散歩中の拾い食いも腸閉塞などに発展する恐れがあるため、拾い食いの癖がついている場合は十分注意してください。
獣医師からみた犬と下痢の関係
わんちゃんは、疲れや精神的な負荷などから、下痢や嘔吐を起こしやすい傾向があります。
しかし、たかが下痢と思っていると、実は重大な病気のサインだったり、栄養失調や脱水に繋がったりして、命の危険につながる可能性もあります。
心配しすぎることはありませんが、適切な判断が出来るよう、正しい知識を持っておくことは大切です。
長期の治療が必要な病気などだった場合、高度診療への受診や長期的な治療など、費用が家計の負担になる可能性も考えられます。
ペット保険への加入により、費用の負担が軽減されると、治療の選択肢も広がり、適切な治療をしてあげられなかったと後悔することも減るでしょう。
いざというときのためにも、ペット保険の加入を考えてみても良いかもしれません。
まとめ
下痢は、年齢問わず犬がかかりやすい症状の1つです。
特に下痢が数日続いたり、下痢以外の症状がみられたりする場合は、重い病気が潜んでいる可能性があります。症状によっては急激に悪化することもあるため、早めに動物病院を受診しましょう。
いつ起こるかわからない下痢から愛犬を守るために、ペット保険への加入を一度検討してみることもおすすめします。
