犬がけいれんした場合、症状によっては命にかかわる病気が隠れていることがあり、早急な動物病院での受診が必要です。
本記事では、けいれんから懸念される病気や病院の受診が必要な症状、治療費の事例や高額な治療費に備えるペット保険について解説します。
犬のけいれんにみられる主な症状
けいれんとは、何らかの病気によって、犬の意思とは無関係に筋肉が激しく動いてしまう症状を指します。
その症状の範囲は、軽度なものから獣医師への相談が必要なものまでさまざまであるため、愛犬の様子を日頃から観察し、気になることがあればすぐに動物病院を受診しましょう。
まずは、犬のけいれんにみられる主な症状について解説します。
数分間にわたって突然震えだしてしまう
けいれんは、脳が出す電気指令が一時的に制御不能になることで引き起こされる症状です。
多くの場合、体が数分間にわたって突然震え、足をバタバタさせたり突っ張ったりするのが特徴です。
他にも、大量のよだれや嘔吐、顎をガクガクと震わせる、意識を失うなどの症状がみられます。
こうした症状を「発作」と呼ぶこともあります。
前兆として落ち着きがなくなったり不安そうにすることも
けいれんが起きる前兆として、落ち着きがなくなったり、不安そうにしたりすることがあります。
あまりにも落ち着きがない状態が続く場合や、流涎、嘔吐などがみられる場合、てんかんや重度の腎不全、肝不全などの病気が疑われます。
食欲不振やうまく歩けないなどの様子がみられた場合は、速やかに動物病院を受診してください。
犬のけいれんの原因として考えられる病気
犬のけいれんには、何らかの病気が原因で発症している場合があります。ここでは、犬のけいれんから懸念される病気について解説します。
筋肉疲労
犬のけいれんの原因としてまず挙げられるのが、筋肉疲労です。
いつもより散歩の距離が長かったり、ドッグランで走り回ったりなど、過度の運動や疲れから疲労が溜まり、ピクピクとけいれんを起こすことがあります。
こうした場合、時間の経過とともにけいれんは治まっていくでしょう。いつもより疲れている場合が考えられるため、ゆっくり休ませてあげることが大切です。
てんかん
てんかんも、犬のけいれんを引き起こす原因の1つです。てんかんを起こす原因の多くは特発性ですが、脳の異変や内臓疾患によっててんかんを起こすこともあります。
けいれんが頻繁に起こる場合は、抗てんかん薬による発作のコントロールが必要です。
特にてんかん発作が1日に2回以上起きる、5分以上続くなどの場合、命にかかわる危険な状態であるため、速やかに動物病院に連絡しましょう。
てんかんにうよるけいれんの発作が30分以上続いてしまうと、脳へのダメージが起こってしまうためあわせて注意が必要です。
犬のてんかんについては、以下の記事で解説していますので、あわせて参考にしてみてください。

腎不全
腎不全を引き起こした場合も、けいれんの症状があらわれます。腎不全とは本来、腎臓で処理されていた毒素が腎臓機能の低下によって溜まり過ぎてしまうことから生じる病気です。
急性の場合、病状は急激に悪化し、治療が遅れると脱水や嘔吐に加え、尿毒症による口臭や昏睡といった重度の症状がみられるようになります。
慢性の場合は徐々に腎臓機能が低下することで、尿の回数頻度が多くなる、大量に水を飲む、嘔吐するといった症状が生じるのが特徴です。
いずれにしても腎不全によるけいれんは症状がかなり進行しているというサインであり、放っておけば命を落とす可能性があります。
少しでも様子がおかしい場合は、速やかにかかりつけの獣医師に相談してください。
肝不全
肝不全もけいれんを引き起こす原因の1つです。肝臓はさまざまな化学物質を解毒するとともに、健康の維持に欠かせない多くの物質を産生している臓器です。
急性肝炎の場合、多飲多尿や嘔吐、下痢などが初期症状ですが、重度になると黄疸やけいれんなどの症状があらわれます。
慢性の場合は、元気の消失や体重の減少などが起こり、長期にわたってダメージを受けることで肝硬変や肝性脳症といわれる意識障害に陥り、そのまま命を落としかねません。
肝臓はなかなか症状があらわれない臓器であるため、症状がみられた場合はすでに肝臓の大部分がダメージを受けていると考えられるでしょう。
特に急性肝炎は、腎臓と同様、急激に状態が進行するため、けいれんや食欲低下などの様子がみられた場合は速やかに動物病院で診察を受けましょう。
中毒症状
犬が有毒成分を含んだ食べ物や殺虫剤などの薬物を誤って食べた場合も、けいれんを起こすことがあります。
特に、農薬や殺虫剤、なめくじ駆除剤などによく含まれている成分を摂取した場合、一刻を争う事態になりかねません。
稀に、市販のノミ取り首輪に中毒症状を引き起こす成分「有機リン」が含まれている場合もあるので、購入の際は注意しましょう。愛犬の誤食に心当たりがある場合は、速やかに動物病院に連絡して指示を仰いでください。
水頭症
犬が水頭症である場合、その影響からけいれんすることがあります。水頭症とは、何らかの原因によって脳脊髄液の産生や循環などに異常が起こり、脳内に溜まることにより脳を圧迫する病気です。
未だ発症の原因については解明されていませんが、小型犬や単頭種など特定の犬種に多く見られることから、遺伝の可能性が高いと考えられています。
- チワワ
- マルチーズ
- ヨークシャーテリア
- ポメラニアン
- トイプードル
- ボストンテリア
- パグ
- ペキニーズ
けいれん以外には、しつけが困難である、ぼーっとしていることが多いなどの症状が一般的です。また、てんかんや視覚障害などを起こす犬もいます。
前もって水頭症の疑いがある場合は、速やかにかかりつけの動物病院を受診しましょう。
参照元:日本臨床獣医学フォーラム|水頭症
脳の炎症
水頭症など遺伝的な異常がない場合、感染症もしくは自己の免疫疾患による脳の炎症からけいれんが起こっているケースが疑われます。
脳炎を生じると、けいれんが起きていないときにも意識レベルの低下や視力障害、歩行障害などの異常がみられるケースが多く、治療しなければ悪化する一方です。
放置すれば命にかかわりかねないため、至急診察を受けることをおすすめします。
低血糖症
犬が低血糖症である場合も、けいれんの症状があらわれます。低血糖症は何らかの理由で血液中のブドウ糖が減って、血糖値が低下している状態です。
けいれん以外に嘔吐や失禁、震えや下痢などといった症状がみられるのが特徴です。重度になると、全身のけいれんや意識障害を生じることもあります。
応急処置としてガムシロップや砂糖水などを与える方法がありますが、低血糖症は処置が遅れると生死にかかわりかねません。応急処置で症状が改善した場合も、速やかにかかりつけの動物病院を受診しましょう。
犬がけいれんを起こしたときの対処法
犬がけいれんを起こした場合、症状を悪化させないために適切な対処が求められます。ここからは、もしものときにパニックにならないよう、犬がけいれんを起こしたときの対処法について解説します。
むやみに触ったり押さえつけたりしない
犬がけいれんを起こした場合、むやみに触ったり押さえつけたりするのは控えましょう。犬の体に触ると、噛まれてケガをする可能性に加えて、刺激となってけいれんを誘発してしまう恐れもあります。
一旦けいれんが終わっても、群発といって再度発作が起きるかもしれません。けいれん直後は犬をすぐ抱っこするのは避け、しばらくはそばで見守ってあげましょう。
体をぶつけないよう周囲の安全を確保する
犬がけいれんの最中に体をぶつけないよう、周囲の安全を確保してあげることも大切です。
けいれんは犬の意思とは関係なく起こっていることが多いため、けいれんに伴ってケガをする恐れがあります。具体的には以下のような工夫が効果的です。
- 家具の角や壁にクッション材を使用する
- 犬の周りに柔らかい毛布などを置く
- 家具やストーブなど危険なものを遠ざける
他に、飼い主が外出して愛犬が留守番する際には、ケージの内側にクッションをつけておくという方法もおすすめです。
時間を測りながらけいれんの様子を動画などで記録する
犬がけいれんしている間、可能であれば時間を測りながらその様子を動画などで撮影しておきましょう。
一言でけいれんといっても種類がさまざまであるため、動画を撮っておくことで獣医師が判断しやすくなります。
全体的な様子も治療の手がかりになるため、けいれんが起こっている部分だけでなく、犬の表情などもわかるように撮ると良いでしょう。
犬のけいれんのうちすぐに動物病院を受診したほうが良いケース
犬のけいれんにはさまざまありますが、以下のような症状がみられる場合は緊急で治療が必要な可能性が高いです。
けいれんの原因にかかわらず、速やかにかかりつけの動物病院へ連れていきましょう。
1日に何度もけいれんを起こしたり重積発作を起こしたりしている
1日に何度もけいれんを起こしたり、重積発作を起こしたりしている場合、緊急的な対処が必要です。放っておけば脳にダメージを蓄積して、脳浮腫や脳ヘルニアにつながりかねません。
場合によっては命にかかわる恐れがあるため、こうした様子がみられた場合はすぐに動物病院を受診してください。
けいれんをしている最中に意識の喪失や呼吸困難がみられる
けいれんをしている最中に意識の喪失がみられた場合、酸素療法や抗てんかん薬など緊急の処置が必要となります。
また、舌や歯茎の色が悪くなっていれば、呼吸困難を起こしている可能性も考えられます。
命にかかわる緊急事態であるため、一刻も早くかかりつけの獣医師に相談しましょう。
犬のけいれんにかかわる病気の治療費はペット保険の補償対象となることも!
犬のけいれんにかかわる治療費には、ペット保険の補償対象となるケースもあります。
最後に、けいれんにかかわる病気で急な出費が必要になった場合などに活用できるペット保険について解説します。
服薬などでけいれんを予防する治療を行うことがある
てんかんや脳腫瘍、水頭症などが原因でけいれんが起きている場合は、症状緩和のために抗てんかん薬が処方されます。獣医師から指示された用量や用法を守って正しく服用しましょう。
たとえけいれんなどの症状がみられなくなった場合でも、自己判断はせず、獣医師に相談してください。獣医師の指示もなく急に中止した場合、その反動で重い発作を起こしてしまう恐れがあります。
また、定期的に健康診断を受けることで、けいれんを引き起こす原因となる病気を早期に発見できます。将来的な予防のために、健康なうちから健康診断を意識しておくと良いでしょう。
治療にかかった費用の事例
犬がけいれんをしている場合、その原因によってかかる治療費は異なります。たとえば、水頭症の疑いで受診した場合、以下のような検査が行われることがあります。
水頭症の疑いで来院した場合
- 初診料・・・約1,000円
- 血液検査・・・約4,000円
- 超音波検査・・・約3,000円
- レントゲン検査・・・約3,000円
- 合計・・・約11,000円(薬代などを除く)
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
上記の検査にて水頭症の疑いが強まった場合、さらにMRI検査やCT検査などより正確な検査をします。
他の脳疾患が疑われる場合、脳髄液を採取して異常を調べる場合もあり、かかる費用はさらに高額になるでしょう。
一方、急性腎不全の疑いで来院した場合は、以下のような費用が発生することが想定されます。
急性腎不全で来院した場合(小型犬)
- 初診料・・・約1,000円
- 血液検査・・・約8,000円(2回)
- 尿検査・・・約1,000円
- レントゲン検査・・・約3,000円
- 超音波検査・・・約3,000円
- 入院費・・・約6,000円(3日間)
- 点滴(静脈内)・・・約9,000円
- 合計・・・約31,000円(薬代などを除く)
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
検査の結果、急性腎不全とわかると、症状によっては3日間ほど入院して集中治療が必要となるため、治療費が高額になる傾向があります。透析など専門的に治療をする場合はさらに高額になることも考えられます。
なお、上記の治療費等はあくまで一例であり、各項目の金額は動物病院によって異なります。
治療費を補償してもらえるペット保険もある
犬のけいれんにかかわる病気の中には、ペット保険の補償対象となるものがあります。
急に高額治療費が必要になった場合や、長く通院が必要となった場合の備えとして、ペット保険はとても頼りになるでしょう。
たとえば慢性腎臓病(腎不全を含む)はアニコム損保の診療費請求件数の7位であり、年間平均診療費が約24万円にもなるという統計があります。
年齢が上がるほど病気にかかる可能性が高まるため、ペット保険の加入は愛犬が若くて健康なうちに検討しておいた方が良いでしょう。
参照元:アニコム損害保険株式会社|知っておきたい犬の保険のこと
加入できない場合や補償対象外となることもある
一方、持病や特定の傷病での既往歴がある場合、ペット保険の加入不可もしくは特定の疾患を補償対象外とされてしまう場合があります。
特に、てんかんや水頭症はペット保険の加入条件として「契約前に発症した場合は加入不可」といった疾患の1つである場合が多い病気です。
保険会社によっては、発症後は補償の対象外となる可能性もあるため、加入時には重要事項説明書や約款の補償対象外項目についてしっかり確認しておきましょう。
以下の記事では、ペット保険各社の具体的な特徴について比較をしています。あわせて御覧ください。

監修者よりコメント
犬のけいれんは、自分の意思とは無関係に筋肉が収縮することによって、全身または体の一部が震える状態です。
はじめて、愛犬のけいれん発作に遭遇した飼い主さんはその衝撃的な姿に驚きと不安を感じるでしょう。
しかし、けいれん発作が起こっている時こそ落ち着いて、周辺の安全を確保しつつ、動画の撮影、時間の計測や様子観察をしてみることが大切です。
そうした情報が獣医師にとって、けいれん発作の原因を診断する際に有用な情報となってきます。
また、けいれん発作は、時には命に関わるような重大な疾患のサインである場合も。
そのため、けいれん発作が起こった場合は、一度動物病院で検査してもらいましょう。
けいれん発作の原因がはっきりすることで飼い主さんの不安も減り、愛犬のQOLを向上させる治療を行うことができます。
しっかりと愛犬の病気と向き合ってより良い生活を目指していきましょう。
まとめ
けいれんは、自分ではコントロールできない筋肉の収縮をいい、全身もしくは体の一部にあらわれます。
原因や症状によっては一刻を争う場合があるため、当てはまる場合は速やかに動物病院を受診するようにしましょう。このとき、けいれんの時間を計測したり、動画を撮ったりすると獣医師が正確な判断をしやすくなります。
けいれんから懸念される病気には高額な治療費がかかる場合があるため、愛犬の調子が良いうちにペット保険の加入を検討しておきましょう。
