本記事では、犬が誤飲や誤食しやすいものや起こり得る症状、高額な診療費に備えるためのペット保険について解説します。
犬の異物誤飲トラブルは少なくない

犬の異物誤飲とは、犬が本来食べてはいけないものを誤って飲み込んだり食べてしまったりすることを指します。犬の異物誤飲トラブルは、決して少なくありません。
便と一緒に排出され大きな健康トラブルへ発展しないものから、緊急手術が必要になるものまで症状はさまざまです。
食べ物ではないものを飲み込んでしまう「誤飲」
犬が誤飲しやすいものとして、よく挙げられるものは以下の通りです。
- 紐類
- タバコ
- 靴下などの衣類
- つまようじや竹串
- 散歩中の小石や砂
- 人間用の医薬品
- おもちゃ
- 殺虫剤や除草剤
- 漂白剤
- 植物
- プラスチック
犬は、私たちが想像できないものまで口に入れてしまいがちです。紐や靴下、人間用の医薬品などの誤飲による死亡例は古くから多い傾向*にあり、この危険性は現在も大きく変わっていないことが想定されます。
特に紐の誤飲は危険性が高く、腸を切ってしまったり傷つけてしまったりする危険性があります。上記のものを愛犬が飲み込んでしまった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。
*参照元:アニコム損害保険株式会社|犬、猫の誤飲:傾向と対策
本来食べてはいけないものを食べてしまう「誤食」
一方で、本来食べてはいけないものを犬が食べてしまうことを、誤食といいます。人間にとっては美味しいものでも、犬が食べると危険な食べ物は少なくありません。
- チョコレート
- ネギ類
- ブドウ
- キシリトール配合物
- アボカド
- マカダミアナッツ
- コーヒー
誤食しやすい異物としてはチョコレートやネギ類、ぶどうやキシリトールなどが挙げられます。これらを食べてしまった場合、さまざまな形で中毒症状があらわれる可能性があります。
例えば、チョコレートやコーヒーなどに含まれるカフェインやテオプロミンを摂取すると、嘔吐や下痢、神経症状がみられる可能性があります。ネギ類の成分が犬の体内に吸収された場合は、貧血を引き起こしかねません。また、ぶどう中毒には急性腎不全を引き起こすリスクがあります。


犬が誤飲・誤食を起こしてしまう原因

犬の異物誤飲・誤食事故は、過去には全国で約20万件以上発生*しており、現在も保険会社から発表される保険金請求が多い傷病のランキングで上位に位置している**ため、十分な注意が必要です。
ここでは、どういった状況から犬が誤飲や誤食を起こすのか、具体的な原因について解説します。
*参照元:アニコム損害保険株式会社|犬、猫の誤飲:傾向と対策
**参照元:アイペット損害保険株式会社|ペットの保険金請求が多い傷病のランキング2021
犬が届いてしまう場所に置いてあるケースが多い
誤飲や誤食が起こる原因としてまず挙げられるのが、犬が届く場所に危険なものが置いてあるということです。
例えば、カバンの中に入れっぱなしにしていた人間用の薬を誤飲してしまったり、リビングにあるゴミ箱を漁って誤食してしまったりという事故は少なくありません。特に子犬は好奇心旺盛で、家の中をあちこち探索して何でも口で噛むことで確認しようとするために事故の発生リスクも高まります。
誤飲・誤食事故を防ぐには、食べてはいけないものを愛犬から遠ざけることが基本的な対策です。「これぐらい大丈夫だ」と安易に考えることはせず、異物をしまう場所や扱い方を徹底するようにしましょう。
家具やおもちゃなどの破損
2つ目の原因として挙げられるのが、家具やおもちゃなどの破損によるものです。犬は基本的に、口に入るサイズなら何でも口に入れてしまう傾向があります。そのため、ぬいぐるみやボール、家具やおもちゃなどを噛んで破損させた部分も飲み込んでしまう可能性があります。
ただし、犬がこうした異物を咥えている場合、無理やり取ろうとすると、攻撃的になったり、取られまいと飲み込んでしまったりするケースが多いため注意しましょう。万が一のときに犬が落ち着いて口から離してくれるよう、普段から「持ってきて」「ちょうだい」などのトレーニングをしておくことをおすすめします。
愛犬が異物誤飲をしたのが明らかである場合は、速やかにかかりつけの獣医師に相談してください。なお、自宅で無理に吐かせるのは控えましょう。獣医師の指示なしで吐かせると、胃や食道への負担や誤嚥性肺炎などを引き起こす恐れがあります。
犬が誤飲・誤食をしてしまったことで起きうる症状

誤飲や誤食をしてしまった犬に起こりうる主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 気力の低下
- ふらつき
- 嘔吐や下痢
- よだれや震え
- 痙攣や意識障害
- 血尿
- 貧血
- 激しい嘔吐
- 排便障害
- 食欲不振
中毒症状は、単純に中毒となる物質の吸収を経て症状が起こることが多いです。
一方で異物を誤食した場合、通過障害や異物が消化管を刺激することによって症状が起こります。
対処が遅れると命に関わる恐れがあるため、上記のような症状がみられる場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。特に子犬やシニア犬は免疫力が弱いため、軽度であっても獣医師に相談することをおすすめします。
ここからは、犬が誤飲や誤食をした際に懸念される症状について解説します。
中毒症状
軽い震えや嘔吐下痢、痙攣やよだれ、意識の低下などがみられる場合、中毒症状を起こしている可能性が考えられます。誤飲や誤食した種類や量によっては、命に関わりかねません。
中毒症状を起こしやすい代表的なものは以下の通りです。
- ネギ類
- ブドウ
- アボカド
- チョコレート
- マカダミアナッツ
- キシリトール配合物
- コーヒー
- タバコ
- 人間用の医薬品
- 植物(アサガオの種やスイセンなど)
- 殺虫剤や除草剤
- 漂白剤
体質や摂取量によって異なりますが、例えば、ネギ類の場合は1日から数日ほど、ブドウの場合は5時間ほどで中毒症状があらわれる傾向があります。
普段と愛犬の様子が違うと感じた場合は、一刻も早く動物病院を受診しましょう。
参照元:ペット栄養学会誌|禁忌食(その1)タマネギなどのネギ属とイヌ・ネコの健康
参照元:日本獣医師会雑誌|ブドウ摂取後に急性腎不全を発症して死亡した犬の1 例
窒息症状
前肢で喉を掻く、苦しがる、舌が青白い、意識が低下するなどの様子がみられる場合、窒息症状を起こしている恐れがあります。飲み込む途中で気道に詰まってしまい、息が満足にできないことによって起こります。原因となる異物の排除や気道の確保をしなければ、命を落としかねません。
窒息症状は誤食の他に、大きなおやつを丸飲みした場合にも起こり得る事故であるため、愛犬におやつを与える際には注意しましょう。異物による窒息が確認される場合、動物病院では内視鏡を使った確認や除去などが行われる可能性があります。
腸閉塞などの消化器障害
異物誤飲や誤食をした場合、以下のような消化器障害が起きる可能性もあります。
腸閉塞
愛犬に食欲の低下や激しい嘔吐、腹痛やお腹の膨張などがみられる場合は、誤飲・誤食した異物が小腸に詰まる腸閉塞を起こしている危険性が高いです。
腸閉塞の原因となる異物は、紐やビニール袋などの腸に詰まりやすいものから、梅干しの種やコインなどの小さいものまでさまざまです。進行すると腸が壊死する恐れがあるため、速やかに開腹手術をする必要があります。
また、鳥の骨や竹串など尖ったものを食べてしまった場合は、腸管を突き破ってしまい、腹膜炎を引き起こしかねません。命の危険があるため、こうした尖ったものを食べた疑いがある場合は、迷わずかかりつけの動物病院を受診してください。
胃や食道の閉塞
食べた異物が便で排出されず胃の中に残り続けた場合も、下痢や嘔吐、食欲低下などが起こったり、後に重い症状を引き起こしたりする恐れがあります。この場合、内視鏡や胃切開手術などの処置が必要になるケースもあります。
他にも、誤飲・誤食直後からよだれや苦悶、吐き気などの症状がみられた場合は食道閉塞が疑われます。重度な場合、食道の壊死や気道圧迫による呼吸困難に繋がりかねません。いずれのケースも、無理に吐き出させようとするとかえって状態を悪化させる恐れがあるため、速やかに獣医師に相談することをおすすめします。
下痢や嘔吐
急に嘔吐や下痢がはじまり、さらに食欲不振の症状がみられる場合には、急性胃腸炎が疑われます。下痢や嘔吐に伴って体内の水分も失われるため、脱水症状がみられることも多くあります。特に子犬の場合、1回の嘔吐や下痢でも低血糖症になる恐れがあるので注意しましょう。
また、実際には吐かないが空嘔吐を繰り返しているという場合も、何らかの重篤な病気の可能性があるため、獣医師の診察を受けることをおすすめします。他にも、吐くような咳をしている、呼吸が荒いなどという場合は、異物によって気道が圧迫されている可能性が考えられます。呼吸器の病気は命に関わるため、速やかに動物病院を受診してください。
誤飲や誤食による症状があらわれるまでの時間
犬が誤飲や誤食をした場合、必ずしも異変が現れるというわけではありません。場合によっては、後日そのまま便として排泄されるケースもあります。
具体的に、食べてしまった異物が便として排泄されるまでにかかる時間や様子を見てもよい時間について紹介します。
便として排泄されるまでにはおよそ12時間から24時間
通常、食べてから便として排泄されるまでにかかる時間は、およそ12時間〜24時間といわれています。
犬の状態や食べたものなどによって異なりますが、一般的に消化時間は胃で2時間、小腸で1時間ほどかけて栄養分の消化と吸収をした後、大腸で水分やミネラルをゆっくりと吸収しながら便を形成して排泄します。
そのため、犬が誤って食べてから数時間以内であれば、催吐処置や内視鏡などで取り出せる可能性もあります。しかし、飲み込んだものが、竹串などの食道を傷つける恐れがある形状の場合、開腹手術を行うしかないと判断されることもあるため注意しましょう。
誤飲・誤食をしたときに様子を見るのは避けたほうが良い
犬が誤飲や誤食をした場合でも、犬の体格と比較して小さい異物や消化されるもので、食道や胃壁に突き刺さる心配のない形であれば、便で出る可能性が高いでしょう。その場合は、獣医師と相談の上、しばらく様子を見るのも方法の1つです。
しかし、いくら小さくても、飲み込んだものがタバコなど毒性の強い異物である場合、重篤な中毒症状が起こるのを避けるために、催吐処置や量次第で胃洗浄などをする場合があります。
薬剤によって異物を吐かせる催吐処置が行えるのは、異物が胃の中にとどまっている1時間程度が目安となります。
誤飲・誤食をした異物や、実際の症状によって適切な処置は異なるため、なるべく早いタイミングで動物病院を受診することをおすすめします。
事前に動物病院へ今から緊急で向かう旨を連絡しておけば、病院側もすぐに処置ができる体制を整えてくれるでしょう。
参照元:公益社団法人・静岡県獣医師会|ペットにとって危険な食べ物とは・・・?Part2
犬の異物誤飲・誤食による傷病にはペット保険が適用できる

犬の異物誤飲や誤食は、アイペット損保が行った保険金請求が多い傷病のランキング上位であることからもわかるように、特に気をつけるべき事故の1つです。異物誤飲や誤食による傷病に備えてペット保険に加入しておけば、万が一の経済的な負担を軽減することができます。
ここからは、急な診療費が求められた場合の備えとなるペット保険について解説します。
参照元:アイペット損害保険株式会社|ペットの保険金請求が多い傷病のランキング2021
数回以上の通院や入院など高額な費用がかかるケースも多い
犬の異物誤飲や誤食の診療費は、食べた内容や量によって大きく異なります。
例えば、ちょっとしたプラスチックを食べてしまった場合、血液検査やレントゲン検査の結果に応じて、催吐処置を行ったり内視鏡を用いたりし、異物を摘出します。レントゲン検査で異物が写らない場合は、さらに超音波検査や造影レントゲン検査などさまざまな検査を用いて、異物の場所や存在などを特定します。
プラスチックを食べて受診した場合
- 内視鏡による異物除去‥‥約5万円〜9万円
参照元:花岡動物病院|基本料金
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
誤飲や誤食してしまったものの内容や大きさによっては、催吐処置や内視鏡では取り出せず、開腹手術が必要になります。
一方、腸閉塞を起こしている場合は開腹手術が必要になるため、かかる費用はさらに高額になります。
腸閉塞を起こしている場合
- 開腹手術による異物除去……206,800円
参照元:銀座ペットクリニック|診療・手術料金表
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
異物誤飲や誤食を補償対象外としている会社もあるため比較が大切
ペット保険の加入を検討する際には、異物誤飲や誤食を補償の対象外としている保険会社もあるため、注意しましょう。異物誤飲や誤食に起因する傷病が補償対象外であれば、当然診療費の補償は受けられなくなってしまいます。
異物誤飲や誤食にかかる診療費への備えとしてペット保険を検討する際には、各保険会社の具体的な補償内容や、重要事項説明書などをよく見て比較することをおすすめします。
すぐ動物病院へ駆け込めることは早期治療にもつながる
ペット保険の加入には、診療費の負担が抑えられることで、愛犬の少しの異変からすぐ動物病院へ駆け込めるというメリットがあります。
診療費への経済的な不安から、愛犬の少し具合が悪そうな状態を様子見してしまう方も多いでしょう。しかし、受診を先延ばしにしたばかりに入院が必要になるケースもあります。
ペット保険によって診療費の負担が抑えられれば、受診ハードルも低くなります。こまめに通えるようになることで病気の早期発見、早期治療にも繋がるでしょう。また、いざというときに納得のいく治療を選択できるという点も大きなメリットといえます。
緊急時に獣医師へ相談できるサービスも活用しやすい
ペット保険の中には、愛犬の急な体調不良への不安や病院に連れていくべきかの判断など、愛犬について困った時、気軽に獣医師へ相談ができるサービスを提供しているものもあります。
異物誤飲は、どんな犬種でも発生しやすい事故です。また、食べた種類や量によっては思いがけない病気に繋がる場合もあるため、獣医師に気軽に相談できることは心強いでしょう。いつどんな時に起こるかわからない、という不安を感じる前に、万が一の備えとしてペット保険に加入しておくのもおすすめです。

犬の異物誤飲や誤食を予防する方法

異物を飲み込んでしまって愛犬に辛い思いをさせないためには、日頃から犬の目の届かない場所を管理し、事故に繋がりにくい環境づくりをしてあげることが大切です。
犬の届かない場所で管理するのが重要
まずは、愛犬が興味を持ちそうなものについては犬が届かない場所で管理するようにしましょう。大切なのは、誤飲・誤食をさせない飼育環境を整えるということです。
具体的には以下のような方法がおすすめです。
- 飼育スペースを決める
- 犬が勝手に開閉できない収納棚を置く
- たばこや医薬品は犬の届かないところに置く
特に、キッチンと子供が遊ぶ部屋は、犬の誤飲や誤食が起こりやすいスペースです。
犬が立ち入らないようにするために、柵や扉などを設けることをおすすめします。
体力の発散不足に起因するストレスに注意
体力の発散不足に起因するストレスを犬に与えないことも重要です。犬は、日常的に体力を発散できなくなってしまうと、家にあるものでいたずらをしてしまう場合があります。ティッシュや小物など、遊んでいたつもりが誤って飲み込んでしまうために体調異変に繋がるケースも少なくありません。
毎日の散歩などで、できるだけ体力を発散させてあげましょう。
例えば、以下のような発散方法があります。
- 散歩の距離を伸ばす
- コースを定期的に変える
- スキンシップを増やす
また、ストレスは異物誤飲や誤食だけでなく、胆のう炎や膵炎などさまざまな病気を引き起こしかねません。犬の問題行動にはストレスが関連していることも多いため、気になることがある場合は、1度獣医師に相談してみるのもおすすめです。
獣医師からのコメント
誤飲や誤食はどんな子でも直面する可能性のあるトラブルですが、対応次第では命にかかわる危険性もある非常に怖いトラブルです。
誤飲や誤食が確認出来たら、早急に動物病院に連絡することをおすすめします。
また夜間や出先で誤飲や誤食をしてしまったときも、早い対応が求められるため、診療時間外の時間帯や出先での対応可能な病院を探しておくことが大切です。
何を、いつ、どのくらいの量食べてしまったのか、また確実に飲み込んでしまっているのかなどを確認しておくと、診察がスムーズに進む可能性が高いでしょう。
少しでも冷静に対処できるよう、診療費への不安の軽減に保険へ加入していることも良いかもしれません。
まとめ
犬の異物誤飲や誤食は起こりやすい事故の1つであり、場合によっては中毒症状や腸閉塞などを引き起こす恐れがあります。そのため、犬が拾い食いをしないよう、普段から飼育環境を整えておくことが大切です。
また、異物誤飲や誤食による手術は、高額な診療費がかかる傾向があります。そうした際の備えとして、ペット保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。

