猫に咳の症状がみられる場合、病気に罹患している可能性があります。
なかには速やかに治療を進めていく必要のある病気も含まれるため、症状によってはすぐに動物病院を受診しなくてはなりません。
発症の可能性がある病気や、受診するべき症状について解説します。
猫が咳をしてしまう時の要因
猫が咳をしている場合、何らかのきっかけで気管支に異常があり引き起こされている可能性があります。
猫に咳の症状がみられる際、病気以外に考えられる原因としては主に以下が挙げられます。
食道内の異物による刺激によってむせる
誤飲したものなど異物が食道に詰まったり、食道内に腫瘍がでたりする刺激によって、咳が生じる場合があります。
咳によって異物が排出されれば咳はおさまりますが、重症化すれば呼吸器の病気に繋がりかねないため、様子をよく確認しておきましょう。
高齢化による気管支の弱り
高齢により、気管支の働きが弱くなるために咳が誘発されるケースも考えられます。
また、嚥下機能も低下するため、食べ物を上手く飲み込めずに咳をしてしまう場合もあります。
嚥下機能の低下は肺腫瘍の症状でみられることもあるため、気になる場合には動物病院の受診をおすすめします。
室内の乾燥
室内の空気が乾燥していると、空気を吸い込んだ猫の気管支に負担がかかり咳の症状が起こりやすくなります。
犬や猫にとって快適な湿度は、約60%といわれています。
乾燥する季節には、加湿器などを活用し湿度管理に注意しましょう。
参照元:博多犬猫医療センター|冬場の乾燥に注意しましょう
猫の咳の原因として考えられる病気
咳が出る症状がみられる猫の病気は、風邪をはじめ、気管支や肺の異常によるものなど、さまざまです。
咳の原因として考えられる主な病気は以下の通りです。
猫風邪
まず挙げられる猫風邪は、様々なウイルスや細菌、クラミジアなどの病原体に感染することによって起こります。
猫風邪を引き起こすウイルスは主に、猫ヘルペスウイルス(FVR)、猫カリシウイルス(FCV)の2種があります。
いずれも猫の混合ワクチンに含まれるため、ワクチン未接種の猫が発症しやすく、重症化しやすい傾向にあります。
参照元:うすだ動物病院|ネコの咳

猫喘息
気管支の慢性的な炎症によって発作的に気道の狭窄などが起こる猫喘息でも、症状のひとつとして咳がみられます。
ハウスダスト、タバコ、芳香剤、花粉、揮発性の化学物質などが発作の原因として考えられています。
- 咳
- ゼーゼーとした呼吸
- 呼吸困難
- 頻呼吸
猫喘息は一度発症すると完治しづらく、長期間治療しながら付き合っていく必要があります。
主な治療方法としてはステロイド薬や、気管支拡張薬の吸入などがあります。
また原因療法として、原因物質を取り除いたり、室温や湿度を管理するなどの生活環境の整備が必要となります。
参照元:うすだ動物病院|ネコの咳

毛球症
猫は、たびたび自身の毛づくろいを行います。
その際に飲み込んでしまった被毛は、通常であれば便や吐き戻しなどによって体外に排出されますが、胃の中で固まり消化できずに留まってしまうために胃や腸へ影響を及ぼしてしまうことがあります。
これを毛球症といい、皮膚疾患の発症に伴う毛づくろい回数の増加や、ストレスなどに起因して脱毛が起きやすくなっている状態で毛づくろいをすることなど、発症の原因は多岐にわたります。
毛球症を発症すると、胃の中の毛を吐き出そうと咳がみられる場合があります。
また、その他にも、便秘や食欲不振などがみられる場合があります。
肺炎
さまざまな要因によって肺に炎症が起こる肺炎でも、猫に咳の症状がみられる場合があります。
- ウイルス感染
- 細菌感染
- 寄生虫感染
- 真菌(カビ)感染
- 誤嚥
- アレルギー など
肺炎は、急性と慢性に分けられます。
急性肺炎には、食べ物が誤って気管に入り起こる誤嚥性肺炎や、猫喘息が肺炎につながる気管支肺炎があります。
これは、嚥下機能の低い子猫や高齢猫でみられやすく、注意が必要です。
肺炎の主な症状は、咳のほかくしゃみや鼻水など、猫風邪とよく似ています。
しかし正常に呼吸ができないために、チアノーゼや呼吸困難など、命に関わる重篤な状態を招く可能性もあるため、早期発見・早期治療が重要です。
咳の症状が続く場合には、速やかに動物病院を受診しましょう。
参照元:動物看護コアテキスト編集委員会|動物看護コアテキスト第六巻 動物看護の実践 第2版(ファームプレス出版)
肺水腫
肺水腫とは、血液や細胞の水分が肺に溜まってしまい、呼吸困難に陥ってしまう病気のことを指します。
心疾患に伴って発症する心原性肺水腫が多いといわれており、命にかかわる重篤な症状になりやすい特徴があります。
一方で、心疾患に起因するものでない非心原性肺水腫の症状は軽いものから重いものまでさまざまです。
肺水腫の症状のひとつに咳が挙げられ、重篤になると呼吸困難から血液中の酸素が少なくなり、チアノーゼを起こすなどの症状もあらわれます。
猫の肺水腫はほとんどが心臓性で、その主な原因として「肥大型心筋症」があげられます。
また非心臓性の原因としては肺炎や敗血症などがあります。
参照元:HALU Animal Hospital|症例紹介 | 猫の肺水腫~猫の呼吸が早い、苦しそう~
参照元:動物看護コアテキスト編集委員会|動物看護コアテキスト第六巻 動物看護の実践 第2版(ファームプレス出版)
肺腫瘍
肺に腫瘍が発生すると、咳の症状がみられる場合があります。
ただし、全身への転移が起こりやすい猫の場合、肺腫瘍の症状としては、呼吸困難や咳よりも正常な歩行ができなくなる跛行の方が多いとされています。
肺に腫瘍ができるよりも他の部位からの転移であるケースが多く、気づいた時にはすでに進行してしまっていることもあるため、定期的な健康診断などで予防や症状の早期発見に努めましょう。
参照元:白石動物病院|猫の肺指定症候群
猫の咳が長く続く場合には動物病院を受診したほうがよい
基本的に咳の症状が一時的なものであれば、早急に受診する必要はなくしばらく様子を見ても良いといえます。
しかし、先述した通り咳の症状がみられる病気の中には、命に関わる重大なものもあり、咳以外にも症状が出る可能性があるため、よく見極める必要があります。
ここからは、猫に咳の症状がみられる際の動物病院受診の目安とその考え方についてご紹介します。
咳の症状のうち動物病院を受診するべきポイント
動物病院の受診を検討する際には、咳以外の症状の有無について確認しましょう。
以下のような症状がみられる場合、咳の原因が病気によるものである可能性が高くなります。
- 呼吸の異常
- 嘔吐
- 食欲不振
- 元気消失
- 発熱
- 鼻水、涙目やに など
咳症状は、呼吸器にかかわる部位の異常や疾患が影響している可能性が高いです。
そのため、以下のような呼吸の異常がみられる場合があります。
開口呼吸 | 口を開けて呼吸をしている。 |
---|---|
頻呼吸 | 呼吸回数が顕著に増える。* |
喘鳴呼吸 | 気管が狭くなり呼吸時に「ヒューヒュー」というような音がする |
チアノーゼ | 血液中の酸素濃度の低下により、舌や唇が青紫色に変色する |
*猫の通常時の呼吸数は、20回~40回/分とされています
これらの症状がみられる場合には、急変するリスクもあるため、咳の症状や様子に関わらず、速やかに動物病院を受診してください。
動物病院を受診する際の症状の伝え方やポイント
動物病院を受診する際には、猫の症状を正確に伝えるために以下の点について整理しておくと良いでしょう。
- 咳の出るタイミング
- 症状が続いている期間
- 咳の様子
- 咳以外にみられる症状
咳の症状は獣医師に伝えるのも難しいため、可能であれば咳をしている様子を動画で撮影したりインターネット上で似た症状の動画を探したりして見せる方法もおすすめです。
猫の咳に関連する病気の治療方法と診療費の目安
アイペット損害保険会社が発表している「ペットの保険金請求が多い傷病のランキング2021」によると、猫の保険金請求が多い傷病のランキングにおいて、7位に腫瘍、8位に異物誤飲、9位に心臓病がランクインしています。
いずれも咳の原因となる傷病で、特に異物誤飲は、猫の保険金請求が多い手術ランキングの第一位の傷病です。
異物誤飲を疑う場合、まず各種検査が必要になります。
異物誤飲疑いで検査した場合
- 初診料……約1,000円
- レントゲン検査……約3,000円
- 血液検査……約5,000円
- 内視鏡検査……30,000円
合計……約39,000円
参照元:日本獣医師会|家庭飼育動物(犬、猫)の診療料金実態調査
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
あくまで目安ですが、異物誤飲による咳を疑う場合、約4万円の診療費がかかると考えられます。
この際、場所によっては内視鏡検査で同時に異物を取り除ける場合もあります。
しかし内視鏡による異物除去ができなかった場合は、追加で開腹手術が必要になり、一層高額になります。
開腹手術が必要になった場合
- 診察……1,500円
- 入院(5泊6日)……27,000円
- 検査……10,000円
- 全身麻酔……15,000円
- 手術……130,000円
- 点滴……20,000円
- 処置……10,000円
- 注射……6,000円
合計……220,800円
参照元:アニコム損保|猫の手術・通院費用はどのくらいかかる? ケース1 異物誤飲の場合
※上記の診療費等はあくまで一例であり、一般的な平均・水準を示すものではありません
※各診療項目の金額は、動物病院によって異なります
開腹を伴う手術では手術自体も高額になり、入院や点滴も要するため非常に高額になる傾向にあります。
また手術やその後の経過によっても費用は前後します。
ペット保険の適用で診療費の負担が抑えられるケースも
先述した通り、咳をしている猫にはさまざまな病気の可能性が考えられます。
状況によってはいくつかの検査が必要になるケースもあり、レントゲン検査やエコー検査、血液検査等が行われると、必要になる費用は高額になります。
また、手術や入院が必要となれば、負担はさらに大きくなるでしょう。
貯蓄で備えておくこともできますが、いざという時のためにペット保険について検討しておくのも良いでしょう。
尚、保険会社ごとに補償の対象となる疾患について定めているため、加入先を検討する際にはきちんと比較することが重要です。

監修担当の獣医師より
猫ちゃんの咳は日常生活で見かけること自体が珍しく、飼ってから一度も咳をしているところを見たことがない方もいるかもしれません。
それは、犬が口を開けて呼吸をする(パンティング)が良くみられるのに対して、猫は鼻呼吸がメインで口で呼吸をすることがほとんどないからです。
そのため、猫ちゃんが頻繁に咳をする、口を開けて呼吸をする(開口呼吸)が見られたときは重篤な病気が隠れていたり、急変する可能性もあるので、すぐに動物病院に相談しましょう。
まとめ
猫の咳がみられる際の原因や発症している可能性のある病気、また病院を受診したほうが良いケースとその診療費について解説しました。
一時的なものであれば、自宅で様子を見ても良いですが、しばらく続く場合には病気の症状のひとつとして咳をしている可能性もあります。
病気の発症を早期に発見し、治療を進めていくためにも、気になる場合にはすぐ動物病院を受診しましょう。
また、いざという時の診療費負担を抑えるために、ペット保険への加入検討もおすすめします。

